23Its mine
地球に来て随分経つが、今でも人間は嫌いだ。
馴れ馴れしく近づかれるのも、ディセプティコンを殺す時に辺りをうろつかれるのにもイライラする。
だから、ヒスイの存在は単なるイレギュラーであり、自分が変わった所など何もないのだ。
ないはずだった。
何週間か基地を空けてパトロールから帰ったディーノは格納庫へ入った瞬間、僅かな違和感を感じ取った。建物に変わった所は見られない。首を傾げながら彼は辺りをぐるりと見回した。
輝く青いセンサー。それがメディカルチェックの台座の前に立つ人間の男を捉えると、彼の中で答えがクリアになる。
―――…いない。あいつが。
メモリにある気配を範囲を広げて辿ってみる。だが、何も感じ取れない。更に広範囲に広げてもそれは変わらず、基地内の何処にもヒスイは居はしなかった。今までオートボットの帰還時にはいつも格納庫に張り付いていた彼女が。
(おかえりなさい)
聞こえて来る筈の、聞こえない声。
ざわり。スパークが嫌な跳ね方をする。
ディーノは大股で彼女の立ち位置にいる知らない人間に近づいて行く。彼の腕のブレードは剥き出しのままで、それを見て白衣を来た男は思わずぎょっと後退った。
『…おい、アイツは何処にいる?』
「え、…?」
『ヒスイは何処だって聞いてんだよ!』
初めて口に出した名前。激昂した声に周囲の空気が張り詰めた。
『いないよ。もう、此処には。』
ただ一人、冷静なラチェットの声にディーノは殺気だった視線を送る。後から輸送機を降りてきたサイドスワイプが何事かと目を白黒させながらディーノの側へ近づいてきた。
『…ラチェット、どういう事だ?何でヒスイが居ないんだよ?』
『配置転換だそうだ。個人的な都合で煩わせたくないから君達が戻ってから基地を離れた事を伝えて欲しいと。一週間程前ここを出たよ。』
淡々と、ラチェットは事実を告げる。あまりに冷静なその物言いにディーノは二の句が告げなかった。
持ち場を離れるなど想像だにしなかった。確約などなかったが、彼女はこれからもずっとここで自分達の帰りを待っているものだと。
「…ディーノ。これからは俺達が」
―――止めろ。
虫けらが気安く呼ぶんじゃねェ。
怒りと嫌悪感が湧く。
彼女は決して、簡単に領域を侵そうとはしなかった。
(ディーノさん)
距離を保って、こちらに合わせた処から彼女は常に声を掛けてきた。
的確に物事を見定める目は、穏やかであるのにいつも強い意志を秘めていて。仲間達に触れる手を、自らにも許す気になれた。オートボットに対する愛情、同族に向けるそれをヒスイが持っていたからだ。
『…俺を診るのはアイツの仕事だ。他の薄汚い人間に触らせる気はねェ。』
低い声で言い切ると、ディーノは最早興味が失せたとばかりサイドスワイプに向き直る。
『…サイドスワイプ。お前、あの女の通信機のデータ持ってたな。』
『――あ。ああ!あるぜ!』
『GPSで居場所辿れ。』
ディーノの言葉にサイドスワイプは勢い良く頷く。ラチェットは溜め息をつきながらも、それを止めようとしなかった。直情型で若い二人の事、想定内の行動だ。
憤慨している科学者を尻目にレノックスに目をやれば、彼も止める様子なくその光景を眺めていた。
『いいのか?あの分だと直きに彼女に迷惑を掛けに行きそうだが。』
「――なに、好きな女の所へ行くだけだろう?長い任務の後だ。それくらいは目を瞑るさ。」
彼の功績と始末書、天秤に掛けるまでもない。レノックスはラチェットに嬉しそうに笑う。相変わらずの砕けた指揮官に彼はふと苦笑を漏らした。
遠く離れた場所で携帯が震える。
それは再会のカウントダウン。
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2011 11 13
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