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22リセット宣告


Time is money.時は金なり。
告げられた言葉にそんな諺を思い出した。


「………異動、ですか。」


呼び出された執務室でレノックスから言い渡されたのは思いもよらない台詞だった。
ヒスイがNEST部隊に所属して、大凡二年。当初は機密事項を偶然知ってしまったが為による配属で、ディエゴガルシアの孤島に飛ばされてから暫くは知り合いもおらず随分と寂しい思いをしたものだ。
本土へ戻れる。それは本来願ってもない事の筈だったが。いつしかここでの生活が染み込んで、帰る事など考えもしない程馴染んでしまった。
驚いて言葉を紡げないヒスイに、レノックスは眉尻を下げる。


「急な通達で…悪いな。だが今回はお前の腕を見込んでの異動命令だ。正直、俺は手放したくないんだが。」
「…、そう…仰っていただけて光栄です。二年も経つと何だか住み慣れた家というか。…。分かりました。残り、期日まで変わらず宜しくお願いします、大佐。」


うまく笑顔が作れたか、自信はなかった。頭では理解している。だが、心がすぐにはやはり付いていかなくて…彼女は敬礼すると書類を受け取ってそのまま部屋を退室した。
コンピュータールームの自席で、彼女は紙面に刻まれた文字を目で追う。以前、壊滅状態に追い込まれたカタール基地が漸くほとんど復旧するまでにこぎつけたらしく、そこのメインシステムの構築に携わるプランのようだった。
責任のある業務。やりがいのある仕事だが、彼女の心はどこか穴が空いていた。
ガラス窓の向こうを見ると、じゃれ合っているビーとサイドスワイプ。それを遠目に眺めているディーノの姿が目に入った。ここで知り合ったオートボット達―――離れれば、もう皆会う事も無いに等しくなるだろう。


「……馬鹿みたい、私。子供じゃあるまいし。」


掌で目を覆って溜め息をつく。
今まで部署が変わるのは幾度か経験してきた。入隊したばかりの頃は涙する事もあったが、…もう冷静に思い出せる程過去の記憶だ。遊びではない。任務なのだから。
ヒスイは頭を振ると、資料を引き出しに仕舞い、モニターの起動ボタンを押した。

(……私は自分が出来る事を精一杯していかなきゃ)

彼らの家はここしかない。人間みたくオートボット達は住む場所を好きに選べない。
この場所に、空間に自分が出来得る限りをして…去らなければ。
自らをそう納得させて、彼女は与えられた仕事に勤しんだ。
例え離れても、地球を、弱い人々を守りたい気持ちは同じ。彼らとの志が決して変わるわけではない。

さよならを言う必要など、ない…のだ。

今日に限って静かな赤いフェラーリをこっそり見つめて、彼女はきゅ、と唇を結んだ。
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2011 11 09

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