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20関係一転、180°


『オイ、ニンゲン。リペアしろ。』


ディーノの態度はヒスイを無理やり基地に連れ帰ってからがらりと変わった。
横柄な物言いは相変わらずだが、彼女がコンピュータールームにいる日は彼は決まって防弾ガラスを指で叩き面倒事を持ち込んだ。
ひそひそと囁きが聞こえる中、彼女は肘をついて頭を抱える。本当なら無視したい。あの日から顔も見たくないと思うヒスイであったがどうしたワケか、反してディーノは頻繁に彼女に絡むようになった。
人間嫌いのオートボットが突然そんな行動に転じれば、当然のように注がれる奇異の視線。皆、手懐けるチャンスだとばかりにヒスイに勝手な期待を寄せていた。


「…なんですか。見た所、私が処置する箇所は無いようですが。」


仕方なく重い腰を上げて、彼女はとぼとぼ彼の方へ歩いて行く。
モニター室を出て脇の欄干を上がり、彼の目線の前に立つと少しだけディーノが青いセンサーを細めたのが分かった。


『…オイオイ、この前までとエラい態度の違いじゃネェか。』
「生憎私に何ら変わりはありません。それなりの人には昔からそれなりの態度です。」


強気にそう口にしたものの、内心ヒスイはヒヤヒヤだった。仮にも相手はオートボットの中で一番気性の荒い跳ね馬だ。
乱暴に掴まれた事も記憶に新しい故に、毅然とした素振りを見せながらも怖がるなという方が無理な話だった。
そんな彼女を見透かすようにアイセンサーがカシャカシャと動く。嫌でも聞こえる居心地の悪い起動音にヒスイはパッと顔を伏せると、スキャン画面に集中した。



「…」
『…オイ』
「…」
『無視すんな、コラ』


大きな指が彼女の身体を押す。
よろめくのを堪えてヒスイが鋭い視線を上げると、ディーノはクク、と可笑しそうに笑った。


「何するんです!」
『まるで"オニンギョウ"だな。この程度で立ってられねェ。』
「、…あなたって人は」
『気をつけな。無鉄砲なのは嫌いじゃねェが力を弁えねェと直ぐに死ぬぜ。』


少し火花の散る手首を見せつけるように、ディーノは彼女の前でそれを揺らす。彼の言葉が何を指すのか、敢えて問う事はしなかった。ヒスイは黙ってその破損箇所を見つめると、静かにプラグを彼に差し込む。


「…私は、オートボットじゃない。あなたのように怪我をしても涼しい顔は出来ません。でも…」
『…。』
「…でも…私は軍人で、人間です。あなたから見ればどんなに小さな命でも私にだって譲れない事はあるし守るべきものがある。」


意地でも、見栄でもない真っ直ぐな瞳。ディーノは澄んだ彼女の眼をただ見つめた。
生意気だと思う。だが、反論した事に対する怒りや嘲りは湧かなかった。迅速に淡々と自らの仕事をこなす彼女に不思議と意識を奪われる。全ての感覚が初めてだった。
訓練で千切れた回線がみるみる回復して行き、彼は元通りになった手でヒスイを囲む。驚いた顔。
少し力を込めて握ればサウンドウェーブがしようとしていた事と同じよう、呆気なく潰れてしまうその儚い身体を、彼は密かに惜しく思った。


『…勿体ねェな。』
「…?勿体、無い?」


首を傾げるヒスイにディーノは溜め息混じりの苦笑を漏らす。

同じ戦士なら、果たしてどんなだったろう。
彼女が人間でなく、志を同じくしたオートボットだったなら。馬鹿げた仮定。奇妙な庇護欲を掻き立てる存在に、彼の中で葛藤が渦巻く。嫌いなままでいい。だが嫌う理由が無くなっていく。
指先を引いて、その結論から逃げるようディーノは彼女からすっと離れた。

何処までいっても彼女は、ニンゲン。
人間なのだ、と。
彼は自身に言い聞かせた。
―――――――――
2011 11 04

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