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01秘密


おかしいなと思い始めたのは、多分、中学生にあがった頃を境にだと思う。家族や友達以外の記憶が何故だか頭の中にあって、認識した当初は大いに戸惑い混乱した。
そんな事、誰に相談出来る筈もなく、強面だが優しく接してくれる兄をヒスイも慕いながら平和に暮らしていた。

海賊や海兵なんか、実物など一度も見た事もないのに。
たまに憂鬱になって、ため息をつく。
ファンタジー的に前世の記憶がある、的な?
いや、あり得ない…。


「どうしたんだ?ヒスイ。百面相だな、」
「何でもないよ、お兄ちゃん。」


頭を撫でられてふわりと笑う。
忘れよう。忘れたことにしておこう。そう決めた。だって今、こんなにも平和で、穏やかな毎日を過ごしている。そう、平凡に小さな幸せに囲まれてこれからも暮らしていく筈だった。
高校二年の春までは。

兄の大学の入学式を見に行った先で、その人はいた。吃驚して肩が跳ねる。桜が舞う校庭で兄と並んだ長身の金髪。サングラスを掛けていても見間違う筈のないその姿にヒスイは真っ青な顔で凍り付いた。

…ド、フラ…ミンゴ…?

ほぼ感覚的に身体が逃げをうった。兄の制止の声が聞こえたが、止まれなかった。全力で走る。最期に見たドフラミンゴの顔がフラッシュバックした瞬間、後ろから腕を捕らわれそのまま足は宙をかく。抱き締められた。


「きゃ…あ、ッ」
「相変わらず行儀が良くねぇじゃじゃ馬だなァ…ヒスイ。まさかヴェルゴと兄妹だったとは。驚いたぜ。」


声が出ない。自分だけだと思っていた。こんな夢のような、あり得ない記憶を持って生きているのは自分だけだと思い込んでいた。
分からない振りをしようか、迷う。口に出さなければ確証はない。黙りこんだまま、ドフラミンゴの腕を退けようともがいていると、耳元で彼が囁いた。


「ロシーもこの世界で生きてるぞ。」
「えっ―――あ、」


しまったと思った時は遅かった。振り向いた先で、ドフラミンゴはしてやったりと笑っていた。
だが、それは彼女がかつて見てきたような悪意のあるものでなく、どことなく穏やかな雰囲気を纏うものだった。
相変わらず二人揃ってドジだなあ、呟いたドフラミンゴにヒスイは言葉をうまく返せず複雑な顔で俯いた。
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2017 03 31

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