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本能が君を渇望している


―――欲しい。
その笑顔が。その体が。能力も全部。
全部、俺のものにしたい。
女になんか、執着した事はなかったのに。


「ヒスイ、いい加減諦めろよ。」
「嫌よ!だってエースは私を白ひげ海賊団に閉じ込める気なんでしょう?」


ローブが靡き、彼女の香りが鼻孔をくすぐる。
本気で手を伸ばせば掴める距離。
だが、エースはそれをしない。
駆けるヒスイを追い詰めて、じわじわと体力を削らせていく。


「火拳…!」
「…ッ」


最後には自分から側に来るよう、求めてくるよう炎で確実に潰す逃げ道。そうして絶望を見せつければ、後が従順で事がすんなり運ぶと彼は核心的に踏んでいた。


「………悪趣味…ッ」
「何とでも。」


口をつく彼女の悪態も、エースにとっては可愛い戯れ言にしか聞こえない。
もうすぐ彼女がこの手に堕ちる。
そう思うだけで口元は自然と綻んだ。
出会ったばかりの頃はこれ程彼女に固執するとは想像だにしなかった。
控えめで、可愛らしい普通の女。
海には到底無縁の、街娘に見えたのに。
だが幾度かグランドラインで会う内に、腕っぷしも強く、自立したその姿に心惹かれるまでそう時間は掛からなかった。

お前は俺の側にいればいい。
どうせ一人でいさせても海賊や海軍が後を絶たず彼女を狙う。
ならば、俺が。


「見つけた宝は俺のモンだ…!」


凄まじい業火を四方に放たれ、襲い来る熱波にヒスイはやむなく足を止める。
だが、それでもヒスイは迫る気配に屈する事なく、腰の剣を引き抜いた。


「私は誰のモノでもない…!」


ありったけの水を掛け、その刃をエースに振るう。
ひらり、と身軽にかわす影をヒスイはその鋭い碧眼で捉えた。

悪魔の瞳。
二人と持たない緑の目は、時間の歪みを駆け抜ける。


「お願い、私を捕まえないで…。…私は海賊にはならない。」


すり抜ける風と、小さな囁きは彼が決して訊けない願い。行かせはしない。
エースは背後を去ろうとした身体を、力の限り抱き込んだ。


「…できねェな。俺はお前が欲しいんだ。」
「…ェ」
「俺を愛せよ、ヒスイ。海賊だとかそんなのごちゃごちゃ考える必要はねェ。」


折れる位身体を抱き締められて、ヒスイは言葉を詰まらせる。焦げるほどに熱いエースの体温。

―――苦しい。
その熱で体が燃えるような錯覚を覚えた瞬間、ヒスイはそのまま意識を失った。

閉じていく瞳。
その目尻から一筋の涙がすっと光る。


「エ…ース……」


貴方の事、嫌いじゃないのに。
沈み行く感覚の中で、問いかけた言葉は声にならない。
ただ先程とは違う優しい感触が体をふわりと包み込み、ヒスイはそのまま力を抜いた。
髪をかきあげ、落とされる口付け。
乱暴に燃える炎は、火拳の強い独占欲。


「俺はお前が好きなんだ。」


優しい緑の光に捕らわれた日から、
ずっと頭から離れない程に。
――――――――
2011 01 16

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