×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



狼諜報員と花屋さん04


晴天に似つかわしくない轟音と振動。
その日、それは潮の香る方角から唐突に起こった。
大砲の音が数発響いた直後、街に伝染していく人々の悲鳴。地なりのように轟くそれにジャブラはカク達と共に建物の外へ飛び出した。

"か、海賊っ"
"…、賊が港にっ"

ざわめきに、数多く聞き取れるその単語。
心臓が跳ねる。彼女の働く店は確か波止場の近くに位置していた。


「ジャブラ?あ…、ちょっとっ」
「うるせェ!構うな!」


カリファの制止を跳ねのけて、気付けば彼は弾かれるように剃を使っていた。
ヒスイ、ヒスイ。

人波を逆行し、押しのけ押しのけて。
下卑た笑いを浮かべた賊を見つけては片っ端からジャブラはなぎ倒した。


「、ヒスイ…っ」


声を上げて、あのか弱い姿を探す。
女一人、襲われでもしたら、一溜まりもない。
どこだ。どこにいる。嫌な汗が、じとり。焦りばかりが募った。
店先はもう見えているのにその姿はどこにも見当たらなくて。


「…ジャブラさん!?」


すぐ側で響いた鈍い音。
続いて人が倒れるのと共に、喧騒の中で響いた声にジャブラは勢いのままそちらを向いた。
白い手に握られた長い刃。花の似合う微笑みは今、なりを潜め険しい表情で立つ彼女の周りには数人ではきかない数の大の男が沈められていた。

足が縫い付けられたよう動かない。
遅れてカク達の足音が近づいてくるのが聴こえる。それでも彼は動けなかった。


「、ジャブラ!全く先走りおって…!まあ、いいわい。」


各々が停泊していた海賊船に飛び込み、相手を軽くいなして行く。
当然だ。CP9と渡り合える賊が錚々そこいらに居るはずもない。急速に減っていく仲間の数に海賊達の内で見る間に動揺が走り、動きが散乱し始める。

思わぬ加勢が入った事で若干余裕の出来たヒスイは呼吸を整えながらジャブラを見つめたが、それも束の間、彼女はすぐに視線を外した。
自棄になった海賊が街へ入り込まぬよう彼女は再び剣を振るう。それは護身術の域を越え、一般人とみなすにはあまりにかけ離れた動きだった。
そして事態が終息に向かい始めると、混乱のなか、彼女は素早く身を翻した。店に飛び込んだかと思うと、リュックを一つ持ち出し逃げるように走り出す。
もう、会えない。こちらを見ない彼女に直感的にそう感じた。


「ヒスイ!!」


振り返ろうとしない背中を彼は夢中で追い駆ける。

待ってくれ、行くな。
思いつく限りの制止を叫んで手を伸ばすが駆ける彼女は届かない。何故だ、何故、剃を使って追い付けない。
その、遠く失われかけた姿を繋ぎ止めたのは、ジャブラの手でなく、包帯の巻かれた別の男の右腕だった。


「、ッ」
「お前…ここで何してる。」


低く、抑揚なく響く声。
割り込んだ影に、ヒスイは殺気にも似た敵意を向けた。
気の昂っていた彼女は掴まれた手を乱暴に解こうと抵抗し、普段からは考えられない荒い声を張り上げる。


「手を離して!ロブ・ルッチ…!」


ヒスイの口から放たれたその一言。
その言葉に、ジャブラは耳を疑った。ルッチを知ることにも驚いたが、彼女が彼に対等に口を利く様も違和感でしかなかった。

(一体、お前、誰なんだ…)

仮面は音をたてて剥がれ落ちた。
――――――――
2011 03 20

[ 90/110 ]

[*prev] [next#]