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片想いを始めました


※not固定ヒロイン。やや悲恋傾向です。


その姿を見ただけで胸が苦しくなる日が来るなんて思わなかった。
出会った頃はただ純粋に楽しかった。
一緒にいて、話があって、居心地が良くて。
付き合おうか。月日を重ねてその言葉を告げたのはどちらからというのではなく、ほぼ同時だったように思う。
仕事では穿かないような短いスカート。勇気を出して初めてのデートでそれを披露した時、ハレンチだと少し怒りながらも彼は可愛いと褒めてくれた。
それがとても嬉しくて、いつもより歩調の緩い彼の隣を隠しきれない笑顔で歩いた。

初めてのキスは彼の家の前。
お休み、そう言って頬に軽く口付けただけだがお互い照れくさくて赤い顔で笑って別れた。


「…パウリー…」


頬杖をついて、名前を呼んでみる。
長く一緒にいると忙しくて、お互いを思いやれない時もあった。
アクアラグナが来た後なんかは特に、二人で会うなんて暇はある筈もなくて街の再建にガレーラは勿論、手伝える人間は裏町の修復に駆けずり回った。

キッカケはいつも些細な事象。
それは出会いも、……そして、別れも。
寄り添って数年―――つまらない所謂るすれ違いで一度離れてしまった手は、もう一度互いに伸ばされる事はなかった。

以前、何かの本で読んだ事がある。
"ありがとう"と"ごめんね"は人が通じ合う魔法の言葉。
確かに、そうだ。
別れる事になって、最後に交わした言葉は"ありがとう"だった。

付き合ってくれて、愛してくれて、
ありがとう。

"…ありがとな、ヒスイ"

だから楽しい時間ばかりではなかったけれど彼との思い出は今も光るものとして胸に刻まれている。


「パウリーさん、待ってー!」
「待てコラ、パウリー!」


今日も彼を呼ぶ声が街に響く。
このウォーターセブンに居れば、嫌でもその名前は耳に入るし、借金取りに追われる姿が視界に入る。
ドキドキとは違うけれどその姿を見る度、まるで遠くから見つめていたあの頃に戻ったよう。切り替えられない気持ちが消えない小さな蝋燭のように心の中でくすぶる。未練とはまた少し異なるこの感情。

(ねえ、パウリー。
私のこんな気持ちを知ったら、貴方は女々しいって笑うかな。)

取り巻きに追い掛けられるパウリーと微かに絡む視線。ヒスイはそれに目を逸らす事なく、変わらない表情でほんの少しだけ目を細めた。

Hello,Good-bye.
My lover!


―――――――――
企画"PPP"様提出。
2011 05 16

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