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下手くそなラブソング


※not 固定ヒロイン。船大工幼なじみです。


「―――でよ。ここの枠組みが……」
「分かった。ここの構造を変えた方がやりやすいって事ね?」


仕事が立て込んでくると、作業は深夜まで及ぶ事も屡々。特にガレーラカンパニーの一番ドッグともなれば、その作業量、求められる造船技術は相当なものだ。
故に、職人が艇に注ぐ情熱も各々半端なものではない。
真剣な貌で図面に書き込まれる無数の訂正の印。
仕事中に不謹慎だとは思いつつも、パウリーは彼女の斜め後ろからその横顔をじっと見つめた。
同期で入った幼なじみは、年齢よりもずっと若く見え、度々、同ドッグのカクと噂が上がる。
無論、街の連中の間で一人歩きしている出鱈目だが、彼にとってそれが面白くないものであるのは事実。
だからと言って付き合ってもいない自分が、口喧しく苦い言葉を発するのも憚られた。

彼女が好きだ。
この気持ちを自覚してもうどれ程になるだろう。
化粧でも、洋服でもなく内側から息吹くヒスイ自身の美しさ。
それ程口数の多い方ではないが、男にも女にも分け隔てなく接する彼女の性質に惹かれるものは昔から多かった。
もし、彼女が誰かのものになってしまったら……考えた事がないワケではない。
だが隣で泣き、笑い、日夜共に仕事に明け暮れる時間が心地よく、それを愛の言葉一つで壊すのがパウリーは酷く怖かった。
ふと、彼の視線に気づいたヒスイが紙面から静かに顔を上げる。


「…パウリー?」


少し隈の出来た目元。疲れが伺える顔を、滑らかとは言えない指がそっと撫でる。
瞳を吸い寄せる淡い唇。このまま口付けてしまえば…―――衝動的に駆られる欲望を抑え込むよう、パウリーは手を引き拳を閉じた。


「……コーヒーでも入れるか?」


そう言って彼が問えば、零れる気を赦した穏やかな笑顔。今はまだこのままで。君のその笑顔を見ただけで、目眩がする程幸せだから。
パウリーは柔らかな髪を一撫ですると、つられるように破顔した。

日付が変わる頃、陶器のぶつかる音が一つ。
湯気だつ優しい香りを吸い込んで、パウリーは白いカップに口付けた。

下手くそなラブソング

君となら進まないこんな恋も悪くない。
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企画「PPP」様提出。

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