その恋、前途多難02
「怒らないで聞いてくれます?」
「?ああ、」
「最初はね、私、パウリーさんの事、海賊かと思ったんです。」
その言葉に、白米をかき込む手を止めて、パウリーは目を瞬かせた。
ガレーラカンパニー近くの食堂。たまたま今日は手持ちの金があり外の空気を吸いたくなって昼休憩にドッグを出ると、なんと店には密かに会いたかった彼女が座っていた。周りに連れはいない。ごくり、と喉が音をたてる。ギャンブル的には確実にリーチだと内心思う状況だ。
あれ以来、カクにも何となくヒスイの事を聞くに聞けず、もんもんとしていた。頭では躊躇うがパウリーの足は真っ直ぐ彼女のテーブルに向かった。
(オイオイ…、俺は一体、何してんだ…)
普段なら絶対に有り得ない行動にパウリー自身、自分の行いに自問自答してしまう。
だが、この奇跡を逃す訳にはいかない。
彼女の事をもっと知りたかった。
「こっ…ここ、空いてるか?」
決死の意で窓の外を眺めていた彼女に声をかけたパウリー。だが、それに顔を向けたヒスイがあっさりと快く自分を迎え入れてくれたのでパウリーは酷くホッとして向かいの席に腰を降ろした。
「こんにちは、パウリーさん。どうぞ。」
会話の有無を心配していたパウリーだが、彼女の声はテンポ良くゆるやかに彼の緊張を溶かした。
初めはヒスイの話す旅の話に相槌を打つに留まっていたパウリーだったが、海が好きだ船が好きだという彼女に次第に話は弾んでいった。
そして今──話は、冒頭の台詞に至る。
「か、海賊…」
ギョッと体に力が入るが、確かに出会い方は最悪だった。お世辞にもガラが良いとは言い難い風貌なのは自覚しているし、怖い思いをしたのだろう。
「悪い…、あの時は怖かったよな。すまねェ。」
思わず箸を止めてパウリーは勢い良く頭を下げた。
そう言えばあの時、きちんと謝れてすらいなかったのではないか?自己嫌悪に顔を歪める。
対して、彼女は一瞬動きを止めた後、慌てて首を横に振った。
「ゴメンなさい!違うの!そうじゃなくて…」
「え…」
こほん、と一つ咳払いして彼女は辺りをそっと見回す。
「……これも怒らないで聞いてくれます?」
声を潜めた上目遣い。愛らしいその仕草に思わず顔が赤らむが、彼は努めて冷静に頷いた。
「……私ね、実は………海賊に憧れてるの。」
小さな声でそう呟き悪戯っぽく笑うヒスイ。
その顔は小さな子供のようにキラキラしていて。対してあまりに突飛な事を言う彼女に、パウリーは暫し言葉を無くしてしまった。
────────
2010 12 28
[ 76/110 ][*prev] [next#]