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レディ、お手をどうぞ01


新世界へ入る為に、立ち寄ったシャボンディ諸島。事前情報で、あまり治安が宜しくない場所がある事は分かっていたが、改めてその地に降り立つと彼女は胃がムカムカした。
きらびやかに展開されるテーマパークの影で、当たり前のように横行している人身売買。傷だらけの奴隷をみても誰も気にも留めない。まるで世界の矛盾をそのまま詰め込んだような、そんな島だった。

顔を布で隠し、彼女は男装をして歩いていた。ふとヒューマンショップから出てくる天竜人に気付いて道の隅で立ち止まる。人間の上で当たり前のように胡座をかく彼らを、熱のない冷ややかな瞳でヒスイは遠くから見つめていた。


「…見過ぎだガキ。この辺りはテメェみたいな子供が一人で出歩いて良いような場所じゃねぇ。拐われたいなら別だがな。」


ふと、からかうように響いた声に視線を移す。ゆっくりと一つまばたきをして、ヒスイは声に首を捻る。燃えるような紅い視線。真っ赤な唇が挨拶変わりにカーブを描いた。

瞳も、髪も、衣服も。全てが、紅に燃ゆるようなその男。お世辞にも穏やかとは言えぬその風貌は、賊であろう事を容易に語っていた。
彼の軽口に応える事なくヒスイはフードを目深に直し、そのまま過ぎようとする。が、彼の傍らに居た仮面の男が彼女の行く手を塞いでしまった。
再度、どうにも止まらざるを得ない歩み。
いきなり始めるつもりはないようだったが、得物は抜かれておりそのまま通り抜ける事は出来なかった。


「――…僕なんか捕まえても売れないと思いますけど。」
「そうでもない。顔立ちが整っていれば、たいした役に立たずとも愛玩用で多少の金になるんだぜ。」


嘲りは一見、ただ馬鹿にしたようであるが、その割には笑っていない瞳をしていた。ヒスイは違和感を覚える。出方を試されているのだ。多分。本来なら刀を抜いて応戦しても良かったが、実際の所、この島で戦闘になるような面倒は起こしたくなかった。
天竜人絡みでなくとも海軍本部が近いこの場所で揉め事を起こせば、海兵が直に飛んでくるのは目に見えている。

(…ここは力を使って、さっさと逃げよう。)

ヒスイが男との距離を測り、能力を発動させようとした――その時。
不意に脇から伸びた腕に強引に肩を抱き寄せられた。


「よォ、ユースタス屋。俺の女に何か用か?」


突然の第三者の介入に、彼女は目を丸くして顔を上げる。仰ぎ見た視線の先。隣に並んでいたのは白い毛皮の帽子を被り、両の目に色濃い隈を持つ青年だった。
知らない人物だが、……何故だか初めて会う気がしない。ヒスイが俄かに硬直していると、青年は片方だけ口元を釣り上げ、彼女の耳元に唇を寄せた。
ごく自然な仕草で隠される、頬から顎にかけてのライン。まるで口付けを交わすような甘い仕草で。

"Book warm。"

そう言えば、分かるか。聴こえるか否かの小さな囁き。しかしその端的な言葉に引き出された記憶により、彼女は肩を震わせた。

―――あの時の、
唇を噛んで、改めて彼を見据えると男はヒスイの肩を掴む腕に更に力を込め、意地の悪い笑みを深めた。


「まさか新世界へいく前に再会出来るとはな。今回は絶対、逃がさねぇから覚悟しろ。」

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白昼夢〜とリンクしてます。
2011 02 28

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