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世界の果てで君を思う(マギ*紅炎)


※魔導士主。白雄の従者。
主を失ってからは、煌帝国を出て暮らしている。


白雄が死んでからヒカルは逃げるように煌の国を飛び出した。子供の頃、彼に拾われてから一生、彼を守り、武人として生きていく事を疑わなかった。
側付きであったとか男女の間柄ではなかったが、愛していた。彼女がルフを集めて魔法を使ってみせると、白雄は穏やかに誇らしそうに笑っていた。それだけで彼女は幸せだった。

(ヒカルは今のまま、どうか自由で居てくれよ。)
(…?私はいつまでも白雄様のお心のままに尽くす所存です。私は白雄様の為に生きているのですから。)

(ありがとう。それは有り難いが……俺はそなたを一生兵士にするつもりはないのだ。いつかそなたに意思が産まれたら好きにその場所へ赴くが良い。)

その意味を彼女は理解出来なかった。
主に尽くすのは使命だけでなく、それ以上に自分の意思だったから。
唐突に信じる柱を失って、ヒカルは茫然とした。白雄に仕えていた者は、白家につくもの、新たに皇帝として据えられた紅徳に鞍替えするもの。皇子達の死を嘆く間もなく、国の流れは瞬きをする間に変わっていった。
彼女とて声が掛からなかったわけではない。白雄に共に仕えた紅炎はヒカルを下につかせようとした。

屋敷を出る仕度を済ませた夜。
二人は久しく再会した。


「この世界から争いごとを無くす。白雄殿下の遺志を俺はこの国で受け継ぐつもりだ。」
「…そうですか。」
「俺と共に戦え、ヒカル。何故、今、国を出る。貴様、このまま白雄殿下の死に目を瞑る気か。」
「私は生前、殿下と交わした約束がございます。炎……いえ、紅炎殿下、あなた様はあなた様の考えがございましょう。私も同じです。そしてその道が重なる事はない。残念です。」
「…貴様ほどの魔導士が国外に流れるのは今、得策ではない。煌を出る事は赦さぬぞ。」


ヒカルは逃げた。闘う振りをして、紅炎の攻撃を躱し続けた。彼の叫びにも何の感慨も沸かなかった。涙も怒りもなく。国外に出て、一人曇りのない朝焼けの中で立ち尽くした。

何もない。
美しい赤い地平線の向こうには何も見えなくて。ヒカルは一人になって初めて涙を流した。


「白雄殿下…」

***

揺り起こされた部屋で、ヒカルはぼんやりと覚醒した。溢れていた涙を拭う。世界を渡り歩いてたどり着いた果て。マギのユナンが暮らす峡谷に彼女は身を寄せていた。
静かで質素な暮らしをしながら、世界の行く末を見つめる。争いごとから外れた、パズルピースの枠のような。たまに訪れる来訪者と語らい、世話をするのがささやかな楽しみで、嬉しくて。昔の夢を見たのはそのせいだろうか。訪れていたファナリスの青年は心配そうに彼女を見つめていた。


「大丈夫か?魘されていたけれど」
「…平気。懐かしい夢を見てしまって、」
「…。君は帰る場所がないと言っていたな。」

「今はユナンが一緒。ムーのレーム国と同じです。」


体を起こして、寝台を降りる。兄のように接してくれるムー・アレキウスはレーム大国の将軍で、貴族であったが気さくな人間ですぐに仲良くなった。
彼の笑顔を見ると、胸が暖かくなる。だが彼も直に居なくなる。体を休めたら、彼は大峡谷の向こう側へ行くそうだ。見たことのない故郷を求めて。


「…戻ったら俺とおいで。レームを案内してやる。君は塞ぎこんでいたら駄目なタイプだ。」
「ふふ、私は拐ってくれるのを待つ姫ではありませんよ。」
「そうか。俺は決めたらかっ拐うタイプなんだ。もっと力を抜いて世界を見てみろよ。」


屈託なく笑うムーにヒカルもつられてはにかむ。彼を見送った後、久しく煌の国を思った。紅炎。白雄に共に仕えたあのひとは手の届かない皇子になってしまった。 時折、ルフに、聞こうとして止める。あの人は元気にしているだろうか。


「…会いに行けばいいじゃないか。
君はまだ若い。いくらでもやり直しが出来るのに。」


ユナンが後ろから優しくヒカルを抱き締める。彼女は静かに微笑むと、ゆっくり首を横に振った。あの時、自分から手離した国だ。今更足を踏み入れる気にはなれなかった。
彼女は白雄に命を捧げたが、彼のいない国に忠誠を誓うことは出来なかった。結局、紅炎ほど先を見据えることが出来ず、自棄になっていたのだ。どうしようもなく子供だった。


「…ユナン。私は炎が好きでした。炎の隣で、白雄殿下を守る事が、何より大切で私の意思だった…」


もう少し良い別れ方が出来なかったかと、
それが今は心残りです。

透明な涙が一粒落ちる。それは美しくもあり、悲しくもあり。ユナンは彼女を宥めるよう、優しく頭を擦ってやった。


泣かないで、僕の大切な友人。
君の傷が癒えるまで、この家で羽根を休めていいから。
――――――――――――
2016 11 11

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