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掌で踊る小鼠(終わりのセラフ*フェリド)


※コミック版冒頭辺りから。
百夜孤児院主。


多分、このまま死んでしまうんだろうと思っていた。
元々、吸血鬼に気紛れに生かされてきた命だ。
地下都市から逃げ出すのに失敗した時点で、仲間達が殺されていくのを目にした時点で彼女の呼吸は殆ど止まっていた。

(優ちゃん…、ミカちゃん…)

涙が、溢れる。皆、どうなってしまっただろう。私はどうなってしまうんだろう。混乱した悲鳴と足音。壁際に撥ね飛ばされた痛みと恐怖で目が開かなかった。

何より。


「あらら、こんなところにヒカルちゃん発見。まだ死んでないかなぁ?」
「…ぅ、」


大嫌いな声が聴覚を刺激する。吸血鬼の貴族の部類にあたるフェリド=バードリー卿だ。ミカエラがいつも血を提供していて見返りを得ていた人物だが、その瞳の嘘に彼女は常に怯えていた。
この惨状の元凶の人物。皆を泳がせて、殺した。せせら笑いながら。せめてこのまま静かに死なせてくれればいいのに。赤い目に射抜かれているだろう感覚にヒカルは静かに震えた。


「…キミは賢い女の子だったね。いつも僕を警戒してなるべく視界に入らないようにしていた。気付いていないと思っていたかい?君の澄んで震える目…僕はとても好きだったんだよ。」
「…や、めて…」
「アハハ、まだ吸ったりしないよ。でも勿体ないから傷口の血は少し味見しておこうかな。」


無遠慮に身体を持ち上げられ、激痛が走る。背中の衣服を剥がされ、唇が寄せられた時、全身が嫌悪感で粟立った。


「い、や…嫌…あッ!ゆ、うちゃ……、ミカ…」
「優ちゃんは逃げちゃったけどミカちゃんはこっち側にいるよ?ああ、泣かないで。後で会わせてあげるから。」


気が遠くなる。早く、早く死なせてよ。転がった仲間の死体を見て涙は枯れる事を知らなかった。
ただ、自由な外の世界を求めただけだったのに。突き落とされた絶望の中で、少女は独り膝を抱えた。

***

「…ちゃん。ヒカルちゃん、起きて。」
「…。」
「たーだいま。どうしたの?魘されて…悪い夢でも見ていたのかな?」
「ええ。でも…よく覚えていないわ。お帰りなさいませ、バードリー卿。」
「二人の時はフェリドで構わないよ。」


寝台から起き上がり、フェリドの外套をそっと受け取る。ここ暫く出掛けていて戻らなかったのに。最悪なあの頃の夢は彼が帰ってくる知らせだったのだろうか。自然とフェリドに背を向けてヒカルは同行していたミカエラの安否をどう聞こうか思案した。

フェリドの屋敷に引き取られてから、彼以外の人物との接触は殆ど赦されなくなった。吸血鬼に身を投じたミカエラにすら、一年に幾度か会えれば良い方だ。今はフェリドの食事としてのみ屋敷に置かれているが、このところ身体が急速に成長している事に彼女は不安を抱いていた。
いつか食事以外の事を求められる日が来たら。あの赤い目に色欲の色が浮かぶのを考えただけでぞっとした。

(大丈夫…、大丈夫よ……だって。あの人は大人の女性を抱いていた…)

一度だけ、フェリドが行為に及びながら血を喰らう様を館の中で見たことがある。背徳的で、妖艶な美しさは子供を寄せ付けない強烈な雰囲気で。

―――関係ない。
自分は彼の食糧の一つに過ぎない。
ずっとそう思っていたかったのに。


「ヒカルちゃん…、最近綺麗になったね。今、いくつ?」
「…今年で16になります。」
「ふぅん。…そうか、じゃあもうすぐ大人のレディだね。」


舌舐めずりが聞こえる気がする。大人になんか成りたくない。背中から抱き締められながら、ヒカルは恐怖をひたすら殺して首筋を差し出した。
懐いた振りをしながら、懸命に彼を避けて生きてきた。今はあの頃、ミカエラがどんな気持ちで自分達を守ろうとしてくれていたか痛いほど分かる。


「僕の可愛いセラフ…。大好きだよ。」


振り向かないで構わないよ。
君の表情を想像するのも、僕の楽しみの一つなんだ。

僕を愛さなくていいよ。ヒカルちゃん。
代わりに僕が可哀想なキミを愛して大切にゆっくり食べてあげる。
――――――――――――――
2015 07 10

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