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Dinosaur Planet15


薄暗い廊下、ハルの後ろを歩きながらヒカルはアッケラ缶と女司令官との会話を思い出していた。
インカムを通して、彼女が質問したのは哺乳人類がバーチャル世界へ侵入した目的と、侵入者がヒカルだけかという事。アッケラ缶は正直に説明し、彼らに敵意の無い事を示したが女司令官はそれだけ聞くとインカムを破壊しようとした。

助け船となったのはハル。彼が、哺乳人類の事後処置を申し出なければ彼女は永遠にバーチャル世界から脱出する術を失う所だった。
インカムはまだ彼の手にある。歩く道筋を記憶しながらヒカルは研究室へ行くというハルの後ろをついて行っていた。

案内された部屋へ辿り着くと、先に部屋を連れ出されていたレイが保護樹脂に包まれた状態で中央の機械に置かれていた。


「レイ!レイ、大丈夫…っ」
「眠っているだけだ…問題はない。」


駆け寄るヒカルにそう告げると、ハルはインカムに意識を移す。ヒカルの姿が見えるよう、カメラの位置を向けるとハルは静かにアッケラ缶の応えを求めた。


「哺乳人類…応答せよ。お前達の居る世界について聞きたい事がある。」
「その前に!ヒカルをどうするつもりなんだ!酷い事をするつもりじゃないだろうな!」
「…酷い事?それはどういう意味だ?傷付けたり、殺したりする事か?」
「そうだ!」
「そんな必要はない。」


ヒカルとの繋がりを絶たれようとして興奮したアッケラ缶とは対照的に淡々と、いつも通りの抑揚の無さでハルは会話を進める。


「私は哺乳人類の生態についてもっとよく調べたい。」
「じゃあその調査が終わればヒカルは自由にしてもらえるんだな?」
「そのつもりはない。」

「え…」


思わず、間の抜けた声が唇から漏れる。ハルは彼女の顔を見つめながら、懐から電磁力を発する小さな武器を武器を取り出した。猟兵が足に付けて攻撃に使っていたのを見た事がある丸い玉。ハルは威嚇程度に彼女にそれを向けると再び静かに口を開いた。


「ヒカルは哺乳人類の稀少な標本だ。我々の本国へ持ち帰り、今後は私の研究に協力してもらう。これは決定事項だ。覆る事はない。」
「…ハル」
「ヒカル、私はお前を傷付けるつもりはない。死にたくないなら大人しくしている事だ。」


確かに。ハルは彼女が乱暴な事をされそうになる度、他の恐竜人類から守ってくれた。しかし、それはあくまで研究の標本として大切に思っているからであり、ヒカル自身を対等に心配している理由からではない。それがはっきりしても彼に敵意は沸かない。が、すんなり納得も出来なかった。


「では私が質問する番だ。…しかし、その前に。ヒカル、そこの椅子に座って脚の傷を見せろ。」
「え。い、いいわよ…別にこんな掠り傷。」
「お前の躯は水分量が多く脆い。細菌感染でも起こして死なれては困る。」


理由はともかくやはりハルは彼女に優しく。ヒカルは怪我の処置をされながら彼を嫌いきれない自分がいる事を自覚した。
血を拭かれ、包帯を両膝に巻かれた後、急に館内に警報音が響き始めハルはそれに気を取られる。


「この音は…」


彼がヒカルから目を離した一瞬。彼女は脇のテーブルに置かれていた攻撃用の玉を咄嗟に手を伸ばして奪い取る。迷いそうになったが、迷っている時ではない。


「…ごめんなさい!!」


これは所詮、仮想なんだ。そう、自分に言い聞かせてヒカルはハルにそれを押し付けた。
電気ショックのような光が一瞬、光り、ハルはその場に倒れ伏す。恐る恐る、息を確認すると、気を失っただけのようで安定した呼吸はしており彼女はほっと息をついた。


「…ハル。付き合えなくて悪いけど私は現実世界に帰らないといけないのよ。」


樹脂に包まれたままのレイを抱いて、ヒカルはインカムを装着する。長居は無用だ。早く脱出しなくては。


「アッケラ缶!インカムを取り返したわ!早くタイムホールを……!!」


彼女が一先ずギラグール基地内から脱出を試みようとしたその時。激しい破壊音がして、部屋の壁が壊された。現れた小型の始めて見る浮遊機械に彼女はじり、と後ずさる。


「…、アッケラ缶!はやくっ」


彼女がそう叫ぶのが早いか否か。ヒカルの体は機械に取り付けられていたアームによって素早く抱えられていた。
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2014 07 12

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