Dinosaur Planet03
「…該当する恐竜がいない?」
アッケラ缶の言葉にヒカルは首を傾げた。
辺りが落ち着いてから、彼女は改めて腕の中の恐竜を見た。体は小柄だが頭の大きなその恐竜はアッケラ缶によるとこれまで発見された事のある骨格データの中に存在しないという。歴史を元に創ったバーチャル世界でそんな事が有り得るのだろうか。
タイムホールの件にしても、腑に落ちない疑問だった。
「一度、バーチャルシステムを解析してよく調べてみるよ。ヒカル、現実世界へ帰っておいで。」
「ええ、分かったわ。」
名残惜しいがヒカルは子供の恐竜をそっと地面に降ろす。不安そうに見つめてくる大きな瞳に彼女はちくりと胸が痛む。タイムホールによって元いた世界から飛ばされてきた可哀想な子供。せめて帰る前に元いた時代と場所へ帰してはやれないものだろうか。彼女はアッケラ缶にインカムで訊ねた。
「ねぇ、アッケラ缶。そっちに帰る前にこの子、元の場所に戻してあげられない?さっきのタイムホールって開いた時代とか場所って調べられないのかな?」
近くの切り株に座ると、足元に小さな白い恐竜は寄ってくる。人間を怖がらないのか、そう考えてこの時代にはまだ人間など存在しない事を彼女は思い出した。
アッケラ缶の返答を待つ間、彼女は白い恐竜を観察する。ふと首を傾げると、恐竜も彼女の真似をして首を傾げた。…可愛らしい。ヒカルはその微笑ましい様子に目を細めると、次は試しにおじきをしてみた。恐竜はそれを暫くじっと見つめた後、彼女を真似て頭を下げる。初めて恐竜の子供を見る為にそれが平均的なものか分からないが知性は高いようだった。
「…レイ。 貴方の名前、レイってどうかしら?」
言葉が通じる筈もないが、彼女はそう言って笑う。しかし白い恐竜はそれに答えるよう嬉しそうに鳴いたのでヒカルは優しくその体を抱き上げてやった。これはバーチャル。それを理解しながらも、彼女は腕の中の温もりに情を抱きつつあった。
そして同刻、二人を監視する冷たい視線があった事はその場の誰もが気付かなかった。
――――――――――――
2014 06 02
[ 77/114 ]
[*prev] [next#]