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星明りに光る素顔(将国のアルタイル*アビリガ)


※マフムート双子姉。軍人。ポイニキア脱出直後。


船に乗ったのは初めてで、船酔いを経験したのも同じくだった。甲板の隅でヒカルは静かに腰を降ろす。
海上でヴェネディックの艦隊に拾われてからマフムートは一命を取り留めたが、まだ部屋から出られる程回復はしていない。ポイニキア都市からの脱出に共に力を尽くしてくれたキュロスもまた、今は体を休めていた。少しくらい体調が悪くとも誰かに告げる事は出来なかった。
星読みに適した晴れた空を眺めると、彼女は少し気分が落ちついた。天体図を開いて、まっさらな用紙に書き込み始める。
暫くペン音だけが辺りに響いた。


「夜風は体に障りますよ、ヒカル殿。」
「!アビリガさん、」
「眠れない?まだそこでいらっしゃるつもりなら毛布でも一枚お持ちしましょうか?」


どれ程経った頃だろう。ふと、見張り台から身軽に降りてくるアビリガに彼女は慌てて立ち上がった。大した怪我もないし、野宿にも慣れている。大丈夫だと彼に話すとアビリガは複雑そうな顔をした。


「…女の子はもっと周りを頼っても構わないんですよ?」
「確かに私は女性ですが、これでもトルキエ軍人の端くれです。特別、女性としての扱いは不要です。」
「…分かりました。では船にいる間は私が勝手に女性扱いする事にしましょう。」


ふわり、アビリガの上着が肩から掛けられヒカルは目を丸くした。そう来られるとは思わなくて、顔に熱が集まる。マフムートがこの人の部屋を占領しているせいで船での生活の質を下げているのにこれ以上迷惑を掛けたくはなかった。


「い…いけません。アビリガさんが風邪をひいては大変です。あの、私は部屋に戻りますから、これは貴方が着ていて下さい。」
「私はこの程度で寝込む体作りはしていませんが。まあ、良いでしょう。では送ります。此所に一人置くより安心ですから。」


肩を抱かれて、歩き出すのを促される。
その時、彼女は思い出した。元々、少し気分が悪くて外の風に当たりに出ていたことを。ふらついた足もと。難なく支えられて、彼女はアビリガの服をそっと掴んだ。


「…。少し船酔いをしていたのを忘れていました。」
「おや。それは少々辛いのでは?嬢は船は初めてで?」
「ええ。大陸では海を見るのも珍しい事でしたから。」
「では後で薬湯を淹れて差し上げよう。まだ到着まで日数がありますから無理をされてはいけません。」
「…はい、」
「変に遠慮もしないこと。貴女に頼られた方が私も楽です。さ、では中へ。」


羽織った上着ごとあっという間に抱え上げられ、驚きに悲鳴も出なかった。女らしくない自分に、気後れする。
痩せ気味で、筋肉質で、豊かな黒髪を持たない自分を他人に気遣わせるのは内心、酷く嫌だった。


「…また難しい顔をしている。」
「え、」
「さっき、空を見ていた貴女はキラキラした子供のような目をしていたのに。」


思い出すよう頬笑むアビリガに、ヒカルは羞恥で口をつぐんだ。努めて外では冷静であるようにしているのに、この人は妙にそれを崩す所ばかりをついてくる。
何だか苦手だな、彼女はもぞもぞと小さくなった。


「…アビリガさんは私が答えにくい事ばかり見られていますね。」
「そうですか?繕わない貴女の方が可愛らしいと伝えているだけですが。」
「…〜だから、それが反応に困るんです!」


顔を隠して抗議するが、アビリガは肩を揺らせて笑うだけだった。逸る心臓を押さえる。青い瞳に薄く涙の膜がはる様を、彼はまた愛らしいと感じたが今度は敢えて黙っておいた。
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2017 07 12

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