友人から夫婦になった二人の朝(シュバルツ弟)
※ifトーマと新婚の場合。
遮光カーテンから入る僅かな日差しでヒカルは目が醒めた。
時間はまだ早く街が起き出している気配はない。ゆっくり上体を起こし、隣りでまだ寝息を立てるトーマを黙って眺める。少し固めの癖っ髪は乾かしてそのまま。
今朝は朝から軍務に出て行くから軽めの朝食が必要だ。
ヒカルはベッドから降り、キッチンの方へ歩いて行った。
(……果物と、パンと…、卵もあったっけ。)
ワンプレートを棚から取って、冷蔵庫の中から必要なものを取り出す。トースターからパンの良い香りが漂い始めた頃に、のそりとした影が現れた。
「あ、おはよう。」
「……おはよう。」
「デザートはバナナで良い?」
「ああ。」
まだ眠そうな様子を隠すことなく、トーマは彼女に寄り掛かる。後ろから頬に唇を寄せると、顔を洗いに洗面所へ歩いて行った。
ただ挨拶のキスとハグをされただけ。平静を装うが、ヒカルは内心まだ少しだけ恥ずかしい。一緒に住み始めて暫く経つが、こうして同じ時間に起きるのは稀だ。仕事や任務ですれ違いの日が続く事もざらにある。
故に揃って食事が出来る日は大切にしたい時間だった。
***
結婚してみてヒカルが家にいる事はトーマにはとても新鮮だった。家族に報告してからは特に反対される事も無く、あっという間に事は進んだ。親しい親族だけで小さな結婚パーティーを開いた時、兄が嬉しそうに祝ってくれた事にトーマは内心ホッとした。
彼女に関して長い付き合いで知らない事はもうあまり無いと思っていたが無防備な姿はこの上なく可愛く思えた。思えばヒカルはいつも近くにいたが、完全に気を抜いていたかと言えば違っていた。
朝の、食事の匂いや音で目が醒める時間は至福だと思う。
キッチンに小さな後ろ姿が立っているのを見ると、穏やかな愛しさと安心感を感じた。
(邪魔したくないが……抱き締めたいな……)
そっと寄り添うと、くすぐったそうに笑ってくれる。
大きめのシャツを着ているせいで、上から見ると鎖骨と際どいラインが目に入り俄に性欲が疼く。柔らかな膨らみごと彼女を後ろから包み込むと、それだけで、今日一日頑張れると思える事にトーマは一人赤くなり苦笑するのだった。
「今夜は家にいるんだよな?」
「うん。遺跡調査に行くのは週末からだから。晩御飯、リクエストある?」
「…じゃあ、出来ればハンバーグを。」
「分かった。」
豪華でない食事が温かく美味しい。二人で寝間着のまま話す時間は楽しかった。食事を終えると、身支度を整えている間にヒカルは食器をシンクに持っていく。
既に回っている洗濯機を見て、トーマは次のゴミ出しの曜日をカレンダーで確認した。
「あ、いいよ?やっておく。」
「いや、俺がやりたいんだ。」
髪を整えながら、トーマは笑う。
彼女も、それに黙って笑みを返すと、食器を洗い始めた。
外から小鳥の囀りが聴こえる。明るさからして、きっと今日は晴天だろう。
「ヒカル」
「んー?」
「俺を選んでくれてありがとう。」
「…。なんだか、最近トーマそういうの照れずに口に出すようになってきたね。」
「…そうだな。影響だな。」
「ふふ、私は嬉しいから良いけど。こちらこそ私のパートナーになってくれてありがとう。」
友人から夫婦へ。少しだけ、しかし確かに変わった二人の関係は穏やかなスタートを経て。
「いってらっしゃい、トーマ!」
玄関口でのキスに、彼女はつま先を伸ばした。
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2022.09.21
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