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積年の想いが芽吹く刻(レイブン)

※ifプロポーズ編。レイブンの場合。


白い花束が青く澄んだ空を舞う。
周囲から上がる祝福の声は高らかに優しく、平和の象徴のようだった。

共和国領内の辺境にある小さな村。普段は僅かな村民にしか満たないその村に、今日は帝国と共和国の名だたる人物達が顔を揃えていた。中心にいるのはバンとフィーネだ。
漸くというか、なんというか。暫く前に結婚していた二人だが、こうして結婚式を改めて見ると感慨深いものがあった。


「ヒカル!ちょっと、久しぶりじゃないのさ!」
「ムンベイ!」


懐かしい顔を見つけて、彼女は駆け寄る。ムンベイとは和平後にフィーネを通して共和国で知りあった友人だ。職業柄、ムンベイも一箇所に留まらない為、会う機会は多くはなかったが、歳が近く気の合う事もあってたまに連絡は取っていた。
ムンベイは軽装のパーティードレスに身を包んだ彼女を見て、左手に視線を移した。


「あれ?あんたまだ結婚してなかったの?」
「え?」
「や、噂でさ。レイブンに押し負けたって聞いてたから。情報も本人に精査しないと当てにならないね。で、くっついてはいるの?」
「…もう少しオブラートに包んで聞いてよ。」


少しだけ頬を赤くして、ヒカルは曖昧に苦笑した。彼の好意は少し前から受け入れている。付き合っている、と一般的には言うのだろうが、自分でそう答えるのはいまだに抵抗があった。家族のように接してきた時間が長かった事もあり他人に話す際、どうにも違和感が拭えない。
招待客の中に黒髪を探す。談笑の輪に入ることなく、少し離れた所でリーゼと話している彼の横顔に目が留まった。
彼を一人の男性として意識するようになったのは付き合いのトータル期間からみればごく最近だ。
結婚して子供を産んでという願望は未だによく分からない。でも、してみないと分からない事もその先にある気がして、彼女の心には新しい気持ちが生まれていた。


「ムンベイ。結婚…てさ、ゴールじゃなくてスタートだよね。」
「お、何急に。」
「以前はね、ずっと一緒にいる約束なんて要らないって思ってた。でも、その大きな約束をして二人で先の見えない人生を選択して歩いて行けるって…そう思える人と出会える事って凄い奇跡だなって最近思うようになってさ。」
「…いい傾向じゃないの。こういっちゃ何だけど、あんたの場合お試しって気持ちでも良いんじゃない?別に合わなきゃ別れてまたあんたの大好きな考古学に打ち込めば良いだけの話さ。」


他意のないムンベイの言葉にヒカルも笑う。
そうだ。約束は永遠ではない。命も。全ては今を大切に生きるためのもの。そう感じるようになるまで随分掛かってしまったけれど。

ヒカルは視線の絡んだレイブンとリーゼににこやかに微笑んだ。

***

結婚式後の宴には彼女は参加しなかった。
レイブンと共にゆったり帝国領土への帰路に着く。騒がしい場を得意としない彼への配慮もあるが、彼女自身もまた長時間に渡る式典は苦手だった。
操縦はシャドーがしてくれている為、二人共コクピット内では寛いで会話も出来た。


「…疲れた?」
「まあな。だがまあ今回の件で連日あんたと会えた。十分だ。」


後部座席で幸せそうに目を閉じているレイブンに、彼女は少し照れくさくてはにかむ。彼は無欲な人だと思う。恋人や夫婦とて不確かな愛を10代の頃から変わらず向けてくれている。彼女が彼を異性として意識する前からずっと。

伝えたい、今。自分の気持ちを。
緊張で汗ばんだ拳を彼女は軽く握った。


「ねえ…、レイブン。
もし私が望んだら、貴方、結婚してくれる?」
「…」


一瞬、不自然にシャドーがカクついた。沈黙が降りる。唐突過ぎて理解するのに時間を要しているだろうか。彼女が前席からレイブンの方をそっと振り返ると、彼の手は既に頬に掛かっておりごく自然に唇が重なった。


「何故、その話は今なんだ?バン達に感化される程、あんたは流されやすくないだろう。」
「…切欠にはなったかもしれないね。前から色々と考えてはいたんだけど。でもレイブンからしたら面白くない、か。」
「当たり前だろう。切欠というなら、俺があんたを口説いている時に決めるべきじゃないか?」


レイブンは大層不満げに息をついた。納得いかないよう外に視線をやる。やってしまった。タイミングを間違えて、怒らせてしまっただろうか。暫く黙っていたが、やがて彼は自信たっぷりといった感で返事を返した。


「質問に対する答えだが。どちらでも構わない、俺は。俺は形式や人集めに興味は無いし、今更あんたを誰かに譲る気もない。」
「つまり現状と変わらないと。」
「まあ、ほぼ、な。法的な契約が加わるという位か。そこは悪くはないな。」


あっさりとした回答に彼女は少し拍子抜けした。大きなリアクションを期待したわけではないが。確かに置かれている状況が大きく変わるわけではない。今回の件で大きく変わるとすれば自分自身。レイブンに自ら向き合おうとする、自らの姿勢だ。
ムンベイはヒカルが彼に折れたという表現をしていたが、それは語弊がある。彼がヒカルの頑なな心を変えたというのが正しいだろう。

不意に、レイブンが脈絡なくふっと笑った。


「?どうかした?」
「…いや、思い出しただけだ。初めてのキスはあんたに突き飛ばされたのを。そのアンタがな。」
「、そ、あの時は、貴方が…!」


振り返ろうとすると、後ろから強く抱きしめられる。
それ以上の言葉は口に出来ない程、彼の腕の力に、込められた想いが強くて彼女は息を呑んだ。


「待ったかいがあった。まさかアンタが結婚を言い出すとは思わなかったが。ヒカルから、俺と生きたいと。俺を欲する言葉が聞けたことが一番嬉しい。」
「…レイブン」
「誰にでも優しいアンタが俺は好きで、嫌いだった。俺はいつだってヒカルの特別になりたかったから。」


そっと、手を重ねる。それだけで、こんなに愛しいと思えるくらい好きだったのだと、彼女は改めて気付かされた。


「漸く捕まえた…。今度こそ本当にな。」


硝子に映った彼の顔は少年のように笑っていた。

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2022.07.29

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