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戦士の最期(レイブン、シュバルツ弟)


※第18話後の閑話。


帝国と共和国の全面戦争が停戦になり、攻め入っていたマウントオッサ要塞付近から帝国軍が撤退する最中。ヒカルは夜、忙殺の合間を縫って、ある機体の回収へ向かった。
もう直せないことは分かっていたが、それでも足を向けずにはいられなかった。

バラバラに砕けた装甲。紅い破片。金属パーツはそこいら中に散らばっていて、ヒカルは暫くそこに立ち尽くしていた。
何度も治してきたゾイドだった。真っ赤なセイバータイガーはレイブンがプロイツェンから与えられた特別な機体で、個体としては非常に優秀なものだった。あのまっすぐで力強い緑眼は、もう見られない。
合流地点に生身で戻ってきたレイブンは、あれほど共に戦ってきた機体を失ったというのに顔色ひとつ変えなかった。

―――あの屑のせいで負けた。
さっさともっといいゾイドを用意してもらわないとな。


「いつかシャドーもそうやって使い捨てて、私も廃棄しますか?」
「なんだと?」

「レイブン…、セイバータイガーは貴方を信頼していましたよ。」


分かっている。レイブンだけでなく、軍人の多くがゾイドの命まで気にかけていない、いられないことは。自分の明日さえ分からない今日。それが戦場だとも理解している。けれど、やはり彼はまた別だ。軍人は軍を離れれば人間に戻る。だがレイブンは戦場以外、心を通わせる場所を持たない少年だ。生きた兵器に、彼にはなって欲しくない。
だがどうやってそれを彼に伝えていけばいいのか。彼女とて人間関係に豊富な経験があるわけではなく、迷っていた。


「シュバルツ少佐の撤退命令が出ているのに夜中に共和国領内をふらふらと歩くそこの愚か者。」
「…!トーマ、」
「全く。共和国軍に銃撃されても文句は言えんぞ。」


光学迷彩が切られ、隠密タイプのゾイドが彼女の近くに現れる。ハッチを開いたトーマは若干、いらついた様子で飛び降りた。そして、彼女の周りを一瞥すると、眉間にシワを寄せ息を吐いた。


「……お前は優しすぎる。こいつは別にお前の愛機ではなかっただろう。」
「ええ…。でも、よく手をかけた機体だった。帝国軍の中ではね。…行きましょう、貴方まで危険な場所に来させてしまったわね。」


ごめんね…、長居するつもりはなかったの。

コアの欠片を拾い上げて、ヒカルはそっと握り締めた。彼女の肩を抱いて、トーマは歩く。
帝国に戻ったら少し休ませてやりたい。レイブンとマルクス少佐の部隊の補佐で今回はかなり無理をしていた筈だ。少し青白く感じた頬に手を伸ばすとほんのりと笑みが返され、トーマも漸く表情を緩めた。


「…帝国に帰ろう。セイバータイガーも一緒だ。」
「うん。」


薄く空が明るんできた夜明け前。ヒカルらはマウントオッサを後にした。すぐ側で、身を隠していたレイブンとシャドーがいたことに彼女は気付かなかった。ゾイドが二機、キャンプに戻っていくのを無表情に見つめながら妙に痛む心にレイブンは疑問を抱くことしか出来なかった。


「…シャドー。どうしてあいつは泣くんだ?
僕にはよく分からない。」


ゾイドは兵器だ。それ以上でもそれ以下でもない。今だってその考えは変わらない。苦しいのはタイガーの死ではなく、彼女の突き放したような態度と静かな哀悼だった。


(――ねえ、トーマ。でもタイガーは後悔していないわ。戦って死んだことを誇りに思ってる。感じるの。)
(そうか、)

(なら、…レイブンのやり方でこの子には良かったのかも知れないね。)
―――――――――
2016 12 31

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