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30裏切りの少年兵_前


『――何だと?クラウドが生きていた?』


海底魔晄炉からの通信は、信じがたい事実を本社のルーファウスにもたらした。彼が懐疑的に思うのも無理はない。クラウドは一月以上前に崩壊するマテリアとライフストリームの中へ"彼女"と共に消えたのだから。彼の動揺が伝わると、無線を握る男はその様子を思い浮かべて僅かばかり笑みを零した。


「随分と遅い合流だが、間違いない。この目で見たぞ、と。後、内部にあいつらと精通した人間がいたらしい。軍の制服を着て暴れてる奴が一緒にいた。」
『……こんな時に裏切り者か。…分かった、それはこちらで調べさせる。お前には潜水艇を脱出次第、別件で仕事をしてもらう。レノ…次はしくじるなよ。』


回線の切れる音。何も聞こえなくなったインカムを投げ捨てると、乱暴に台座の上に足を置いた。ヒュージマテリアの奪取までは上手く事は運んでいた。アバランチが邪魔に入るのも予想出来た事だが、…計算外だったのはクラウドの存在。そして彼らをサポートする神羅兵の姿だった。
まさか混乱に乗じて船を追撃されるなど思いもしなかった。潜水艇は誰しもが、おいそれと動かせる代物ではない。
クラウドか…、または奴らと共に居た一般兵の制服を来た少年兵か……しかし、彼らが機器に詳しいとも思えなかった。


「レノさん!脱出ポッドの準備が整いました。お早く…!」
「…了解。すぐ行くぞ、と。」


足を床に降ろすと、ぱしゃん、と水しぶきが跳ねる。脆い部分にミサイルを打ち込まれたのだろう。
浸水のスピードはそれほど異常な速度だった。


「―――…あーあ。この靴、結構高かったのにな、と。」


ズボンの裾を濡らしながら、レノはコクピットを後にする。
彼は知る由もなかった。
先程、目にしたマスクに隠された一般兵の正体。ようやく相見えた時、レノにとってヒスイリアは皮肉にも取るに足らないユダとしてしか映らなかった。

***

「……お前、何でも出来んだな。」
「まあ…。一応、これでも元ソルジャー.1stですから。ひょっとして何のメリットも考えず、私を仲間にしたんですか?」


潜水艇の操縦桿を握ったまま、ヒスイリアは隣に立つバレットを見上げた。ジュノン支部への潜入から、海底魔晄炉までの彼女の誘導は見事だった。不要な戦いを避け、あげく敵の船まで奪ってしまった。クラウドとヒスイリアが前に出れば後方支援だけで事は足りた。
改めてソルジャーという存在が恐ろしくなる。味方につけば、これ以上ない戦力だが。
ちょうどその時、ジュノン支社からの通信が入る。
ヒスイリアはチャンネルを合わせると、ノイズ調整を行いながらインカムをつけた。


『…潜水……部隊……お…答せよ。繰り返す…神羅潜水艦部隊全機、応答せよ……』
「おい……こりゃ、まずいんじゃ……」


思わず声をあげかけたバレットを制し、彼女は素早く回線を開く。


「こちら弐号機、異常ありません。」


一同が緊張する中で、平然と彼女は言い放った。
コクピットの隅で縛りあげてある兵士達を横目に彼女は努めて冷静に動く。
やがて、返答はすぐに返った。


『了解。…次のミッションを伝える。速やかにジュノンドックに帰港せよ。現状、回収完了したヒュージマテリアをエアポートより搬出する。作業の無い物は警備に当たる事。…以上だ。』


プツン、と音がして回線はあっさり途切れた。
ヒスイリアはインカムを外しながら、小さく安堵の息をつく。


「さ、浮上します。座れる人は座って。ドッグでなく、浅瀬に向かうので多少の揺れは堪えて下さい。」


口を挟む暇もなく、バレットは空いている席に腰を下ろす。固定ベルトを締めていると、隣に座ったティファとふと目が合った。


「頼もしいね。」
「…ったく、あんなのが敵だったかと思うと怖くなるぜ。」


バレットの言葉に、ティファは曖昧に苦笑する。
ミディールで共にいてくれていた彼女が、今は神羅兵の軍服を着て操縦席に座っている。
自分達と来てくれると言った時、本当に嬉しかった。
けれど、さっき…レノが目の前に現れた時、これで良かったのか不安になった。
彼女の顔は完全に隠れてしまっていて分からなかったけれど…確かに彼の方を見据えていた。



「私だと分からない方が向こうも油断するからやりやすい。ヒスイリア=フェアは……死んだままの方がいい。」



マスクを被る前に話していた言葉。正論だが、ティファはそれを悲しく思った。
少し手を伸ばせば、届く距離。
名を呼べば、きっと振り返るくらい。


「この…裏切り者!!貴様、殺してやる!!」


その時、口に貼っていた粘着テープが外れて、神羅兵の一人が声をあげた。憎しみに満ちた、敵意。ティファはそれに喉が引き攣り声を飲み込んだが当のヒスイリアは変わらなかった。


「そう言われるのは生憎、慣れてる。」


そう、淡々と応えた彼女の表情は誰にも分からなかった。

***

「……少し、遅かったな。」


アンダージュノンの裏港から再び上層部へ向かったクラウド達だったが、飛空挺は既に離陸していた。
東へ飛び去る後尾をクラウドは悔しげにじっと見つめる。


「…船酔いは大丈夫なの?リーダーさん。」


軽口を交わしつつ、ヒスイリアは隣に並びマスクを半分程押し上げた。久しぶりに覗いた瞳は悪戯っぽく笑っておりティファはこっそり安堵する。
クラウドは彼女の言葉に罰が悪そうに首を縦に振ると、小さくなる艇に視線を移す。


「どこへ向かうつもりなのかしら…。」
「決まってるさ。奴らはあれでメテオの破壊を目論んでる。行き先は…ロケット村だ。」


吹き抜ける強い風に髪を押さえつつ呟いたティファにクラウドが答えた。
ヒスイリアは刹那、それに思案するよう目を伏せると、すぐに顔を上げ彼等の方へ向き直る。


「なら、ハイウインドの出番ね。足の速い飛空挺だから今からならまだ間に合うかも。」
「おっしゃ!じゃあ、早いとこ艇に戻ろうぜ!」


バレットはそれを聞いて、鼻息荒く携帯を取り出すとそのまま通路へと走り出した。
クラウドとティファもそれに続こうとするがヒスイリアの足音が聞こえない事にティファが一度足を止める。


「ヒスイリア…?どうしたの、早く…」
「…貴方達はロケット村へ向かって。私は、もう一度海底に戻る。」
「えっ?」
「神羅はじきに沈んだ沈没船のヒュージマテリア回収に行く。その前に、先にあれを回収しないと。終わったら連絡を入れるから…別の場所で落ち合いましょう。」


瞬時に横をすり抜ける体。
振り返ると、ヒスイリアの背はすでに遠く離れていた。


「、ヒスイリア…ッ」
「ティファ!」


思わず、彼女を追って走りだそうとしたティファをクラウドが横から引き止める。


「…離して!一人でなんて行かせられない!」
「駄目だ!俺達が一緒に行っても無駄に敵を寄せる。あいつに任せた方がいい。」
「…そう、だけどっ。…そうじゃなくて………」

クラウドは、知らないから。

複雑そうに沈んだティファの表情。
俯いたティファにクラウドは首を傾げたが、何にせよ今は時間がない。
彼は彼女の手を掴むと、バレットの後を追って駆け出した。


「大丈夫だ。あいつは約束を破るような奴じゃない。」
「……。」

「信じるって決めただろ?」


クラウドの問いにティファは引かれる手に力を込める。
ティファはそうして渦巻く思いを振り払うように首を振ると、ようやく自分の足で走り出した。

違うよ、そうじゃないの。クラウド。
本当は…ヒスイリアは。

捕虜にしていた兵士達をそのまま放り出してヒスイリアは、再び深海を進んでいた。先程、潜水艇を撃沈した位置へ向かいながら、彼女が考えていたのは自分に向けられていた視線。ティファの心配そうな顔だった。


「……意外にするどいなあ、あの娘。」


一人だけのコクピットで彼女は静かに苦笑する。
大空洞では死を覚悟していた為に、思わずレノの事を口に出してしまったが…それがティファの胸に引っかかっているのだとしたら申し訳なく思った。
彼女には明るい笑顔が似合うのに。
そうしている内に、赤い機体が視界の先に現れる。
幸いまだ軍が戻ってきた気配はない。
彼女がほっと息をつき、クレーンを出そうとしたその時。

突然ソナーが音を立て艦内が警報音と共に赤い光に包まれた。


「何!?」


画面を見ると、ついさっきまでは影すらなかった座標に巨大な点が映し出されている。
通常のモンスター…にしては、大きすぎる。
こちらに向かって一直線に向かってくるそれにヒスイリアは目を見開いた。


「、まさ…か…!……」


回避しようと、操縦桿を握るが衝撃が来たのはその直後だった。

息の出来ない圧力。
恐らく、体当たりで吹き飛ばされたのだろうと悟る。


「くっ…、あ……」


気持ちの悪い浮遊感。
遠のきかけた意識の中ヒスイリアは、目前に迫る緑色の影を目の当たりにする。

ウェポン……

絶え絶えに漏れたその言葉は音として紡がれる事なく、彼女は気を失った。
―――――――――――――
2014 02 24再UP
一部改訂。

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