扉をあければ、一同が視線を彼女に向けた。
彼女はそんな視線も気にせず、軽やかな足取りで中央へ向かっていった。
周りの騒ぎ声、つまみ出そうとするもの、あざけ笑うもの、驚くもの。
そんな人たちも気にせず彼女はまっすぐ歩いた。
久しぶりに見る彼女は、何も変わっては居なかった。



「ジョルノ、ひさしぶりね」

彼女は、そう一言紡いだ。
何も変わっていない、というのは違ったようだ。少し見ないうちに、彼女はこんなにも大人びた笑みを浮かべるようになっているとは、と少し驚いた。
ジョルノ・ジョヴァーナは彼女を見据える。
そして、視線をドン・ボンゴレに変える。










「これから、よろしくジョルノ」

ドン・ボンゴレは優しく微笑み、ジョルノと握手を交した。
彼女は、条件に叶ったのだ。彼女はやってのけたのだ。
互いの幹部達はほっと胸を撫で下ろした。
そう、彼女の活躍によって同盟が結ばれたのだ。
事情を聞かされていない者達は、何故暗スプリーモがいつものような黒いマスクをして独立暗殺部隊の制服を着ていないのか。
胸元がハートの形で抜かれており、布面積の少ない、ハイセンスを通り越したワンピースを着こなして何食わぬ顔でパッショーネのボスに笑いかけるのか。
彼女の言葉で、同盟が結ばれたのか。疑問でざわめく。
次第に疑問は罵倒の声に変わっていった。
そんな罵倒を聞いたパッショーネも黙ってはおらず、罵倒しあいついには殴り合いに発展するのではないか、と危惧した者達がその場を治めよう…というところで扉が開く







「う゛ぉおい!!スプリーモ、てめぇぇふざけんじゃあねぇぞぉ!」

殴り合うその瞬間…彼の怒鳴り声が会場を響かせる。
暗殺者として、かなりやり手だと分かる身のこなし。一瞬のできごとだった。
銀色の髪がばさっと舞い上がる、と思ったら彼は剣を彼女の首に向かって突きつけた。
その瞳は、裏切り者を排除する目。そして冷たい暗殺者としての顔が伺えた。


「スクアーロ隊長、物騒です、よ」

マドンナ、と彼女は何食わぬ顔をしてスタンドを呼び出す。
間一髪で、彼の攻撃を避け更に後ろに回り込む。
彼女はなんのためらいも無く、マドンナを使いスクアーロの背中にその辺にあったフォークを持ち、向ける。



「う゛ぉおい!卑怯だぞぉ」

卑怯はどっちのほうなのか。彼女は、はぁとわざとため息をついて見せた。きっと彼にそんなところを見せてもどうなるわけでもないか、と少し笑って昔彼と会って話したことを思い出す。
瞬いて、彼女を見ると違う目線に向かって、少しだけ口を動かして舌を出していた。
目線の先に目を向けると、ブチャラティが何かを伝えているようだった。
早く伝えろと、急かしているのだろうか。しかし彼女はそんなことおかまいなしに「ひさびさね、ブチャラティ。元気かしら」と、スクアーロの攻撃を華麗に避けて微笑んだ。
そして今度は、僕とボンゴレのボスであるティモッテオのところに移動する、もちろん彼女はマドンナを使って











「もう少し、余裕もって招集かけてよね」

おかげで、凶悪な鮫が追っかけてきてしまったじゃない。とため息を付き彼女は、聞こえるように淡々と経緯を紡ぎだした。

私がパッショーネから抜けてボンゴレに行かなければいけなかった理由、それは。
パッショーネとボンゴレの同盟を結ぶための条件としてボンゴレ内で功績を上げること
秘密裏に同盟を結ぶ計画を各ギャング達のボス同士で行っていたこと
そして彼女は、パッショーネでも悪名高い暗殺チーム出身だということ
そして本日付けで、パッショーネからボンゴレへの人質という言葉はないが、正式に独立暗殺舞台ヴァリアーに移籍することとなる。









「みんな、置いてけぼりね」

最後の一文は、ヴァリアーのボスであるXUNXASの意見により新たに加えられた一文だった。
決まったのはつい3日前。ジョルノとリゾットとドン・ボンゴレとXUNXASしか知らないことだったようで、パッショーネ側でどよめきが走った。
「私だって聞いてないもの、こういう反応よね」彼女はそう言って笑った。
同じ傷を舐め合った彼ら、暗殺チーム
まさか彼女がこんな形で暗殺チームを抜けなければ行けない日が来るなんて、誰も思っていなかっただろう。
そして、それは僕自身も。
でも、その選択は彼女がそっちで成長したからこそ、導きだせた答えなのだろう。何も言うまい。ただ、大切な人が移籍することを指を加えて黙って見ているのだけは嫌だったから少しだけ条件を出してもらった。
でも、同盟が結ばれれば、会えない状態はなくなるのだから。しかたがない、なぁなんて思っている矢先、メローネの声が響く。




「聞いてない!俺は、絶対反対!」
「おい、メローネ!てめぇおとなしく!!」

突然部屋の右側にかかっていた鏡から、アイマスクをした彼、メローネが飛び出してきた。それを追ってギアッチョ、ホルマジオやプロシュートまで出てくる。
この感じ、なんだかとても嫌な予感がした。嫌な予感ほど当たるものはない。
突然鏡から飛び出し、殺気ばんばんのプロシュート達。スクアーロを追ってきたヴァリアー幹部達も無事到着。
すぐに睨み合うことになる。なんて予想はすでについている。






「なに、このおもしろ集団」
「はぁ、てめぇらには言われたくねえな」

ベルフェゴールの漏らした言葉に、うなずける部分もある。
ハイセンスを通り越した服装をしたうちの暗殺チームはパッショーネの中でもかなりエキセントリックな格好をしているだろう。





「よぉ、同業者さん」

やはり彼らは、裏切らない。目の前にみつけた標的に向かって、憎たらしい笑みを浮かべて挑発でもしたらめんどくさいことになるだろうなと思っていた矢先。
いけ好かない笑みを浮かべながら、ヴァリアー幹部達を挑発した。
挑発に乗るんだろうな、彼らも。格下だったらきっと相手にしない。同等レベルだからこそ、相手にしたくなるのだろうか。





「よぉ。俺らは顔も知っている仲だろぉ。何度もターゲットを奪われたからなぁ」
「それは、こっちも同じだ」

黙っていたプロシュートがスクアーロをにらむ。
スクアーロもホルマジオに負けず、にやりとあくどい顔をして挑発した。
そしてプロシュートはわざわざ彼女の手を引っ張って肩を抱く。無駄なことはやめてほしい。
ブチャラティ達にでも止めてもらうかと、視線を寄せると、何やら楽しそうに野次を飛ばしていた・
「やめて、私のために争わないで」なんて彼女もノリノリで言ってしまっているあたり、もう僕の出る幕はないのだろうと察する。無駄なことはしたくない。だから何も言わない。





「どちらにしろ、こいつはもうこっちのものだ」
「何言ってやがる、今此処でお前らと一戦交えてもいいんだぞ」

外野である、ミスタやナランチャの騒ぎ立てる声。
ボンゴレ側も面白そうに笑って酒を煽りながら見ている。
そしてお互いの暗殺集団達は、牽制しあっている。いやいや、メローネお前は誰を餌食にするのだ。







「彼女は、ファミリーにとって大切な存在だったんだね」
「ヴァリアーでも、もっと活躍しますよ。ね、スプリーモ」

互いの暗殺者たちがすごい殺気を出して向き合っている現状の中、僕とドン・ボンゴレは微笑みながらそれを見ていることに気がついた彼女はいい加減とめてくれないかな、なんてさっきの悪のりはもうやめたのかうんざりした顔つきに変わっていた。
僕は手出ししませんよ、なんて思いながらどうにかしてくれそうなリゾットとXANXUSを見ればお互いに、どうなるのかと座って腕を組みながら見ている。彼らも手出しする気はないらしい。



罵倒、罵声。
わいわいがやがや、やれどっちが彼女を上手く使いこなせるのか、相棒として動かせるのか。
一度、そういうやつ相手にしてみたかったんだよね、とか。そんな物騒な言葉が飛び交う。
しかも大声で繰り広げられている。ある意味では平和なんだろう。ここに今乗り込んでくるやつが居たらぶっ殺すと思う前に殺されてしまうのだろうなぁなんてのんきに考えた。





「無駄なことはその辺にして欲しいですね」

そろそろ、救いの手を差し伸べてあげるとしよう。
こんな幕で、彼女の物語は終焉を迎える。
ここに綴るのは、彼女の奮闘記である。







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