榊原女史の決断【は】








 すぐに謝るくせ、好奇心は潰えないらしい。

 倫太郎はふわふわと浮かぶ体を畳の上に下ろし、私の机上に肘をついて話を聞き出す体制に入っている。

 初めて会った時から変わらない十歳の小さな体、ぼさっと伸びた黒い髪の奥で、黒真珠のような大きな目がキラキラと輝いた。


 こうなった倫太郎はしつこい。

 今私が口を閉ざしたとして、四六時中傍にいるからどこかで聞き出そうと狙ってくるに違いない。


《それじゃぁどうするの? 学園中・・・それこそ人間から妖怪・雑鬼たちまで色葉たちの話題で持ちきりだよ? あの『善法寺伊作と榊原倫太郎が付き合い始めた』ってね》


「・・・・・流石忍者の学校と感嘆するべきか?」


《いやいや。善法寺の知名度の高さが影響してるんじゃないかな》


「だろうな」


《それに妖怪たちに関しては色葉にも・・・・・・・・・って話逸らさないでよ! で? 付き合うの? 学園中に蔓延した噂を一つ残らず潰してまわるの? それとも放置?》


「・・・・・・・善法寺と付き合う・・・」


《そっかそっかぁ、付き合うのかぁ。善法寺と。なら僕は・・・・・・・・・ええええええええええぇぇぇぇぇッ!!!? ちょっとソレ本気ッ、何があったの色葉ッ!!? まさか色葉はそっちの気がなくてもイケるタイプなのッッ!!!?》


「そっちの気って何だ・・・。とりあえず、落ち着け」


 やたらリアクションの大きな倫太郎が落ち着くのを待ちながら、私は広げていた教材を仕舞っていく。

 睡眠不足のあまり休み時間という休み時間を睡眠時間に費やすのはよくあるが、今日は座学が一時間潰れて自習に変わったお陰でいつもより体が軽かった。

 ただでさえ睡眠不足の朝食抜きなんだ、昼食前の授業の内容がどう転ぶかは重要だ。

・・・・・・学園長の陰謀を感じられなくもないが、休める時に休んでおこう。


「私が昨日、忍務に出ていたことは覚えているな?」


《それは勿論。僕も行ってたのに忘れてたら大問題だよ》


「なら出動要請が出たのがいつだったかも覚えているな?」


《いつ、って・・・》


「善法寺とのいざこざの最中だ」


《・・・・・あー・・・・・》


「よって、善法寺の告白に対して明確な返事ができないまま退場となった」


《あ〜〜〜、そうだった! 全然空気読んでなかったよね、学園長!・・・・ううん、それが狙いなのかな?》


「否定出来ないな。あの狸爺、報告に行った時に不気味な笑みを浮かべていた」


《・・・・この学園で一番偉い人を『狸爺』だなんて言える人、色葉くらいだよね・・・》


「言わないだけで、誰もが認識していることだ」


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