榊原女史の決断【ろ】








 それでも時間は無情に過ぎていく。



 とんとん、とんとん、と木戸をノックするような音が脳裏の奥から聞こえて、私はゆっくりと重い瞼を上げた。

 私が起きたい時間になると、私の中の倫太郎が目覚まし時計となってそっと起こしてくれるのだ。

 うんうん、良い子に育ってくれていて私は嬉しい。


《あ、色葉やっと起きたー。相変わらず間が良いね》


「・・・・何かあったか?」


《あったあった。善法寺と食満が来てたんだよ、さっきまで》


「? 七松と中在家を呼びに来たんじゃないのか?」


《違う違う、色葉を誘いに来たんだよ。昼食のお誘いにね》


「げ」


 ニヨニヨと心底楽しげな倫太郎の台詞に思わず顔が歪んだ。

 目覚めは良い方だと自負していても、この起きがけの情報は私の眠気を遥か彼方へと吹っ飛ばした。空腹感もどこかに飛んで行った。

 今一番聞きたくない話題なのだから仕方が無い。


《こらこら、その顔は無いでしょ? 恋人がわざわざ会いに来てくれたんだから! ま、保護者同伴だけどね》


「・・・・・・・・・・・・・・」


《えへへ、嬉しいなー。色葉に恋人ができるなんて! いくら忍者にとって三禁とはいえ、色葉ってば全然遊ぶ気配も無いから心配してたんだよー? そこんじょそこらの男より漢らしいし!


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


《ハツネと泥沼の三角関係に陥りかけた時は・・・・・・正直、ハツネ選ぶんじゃないかってハラハラしたけど・・・・・・・良かった! 女の子みたいな可愛い顔してるけど、善法寺男だものね!》



「霊的攻撃と物理的攻撃のどちらを受けたい?」


《スミマセン調子ニノリ過ギマシタ》


「わかればよろしい」



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