02
「やっぱり熱出てるな」
「・・・・・・・・・・・・・・」
部屋に入れてすぐ体温を測らせた。
三十八度五分。
あまり良くない結果だ。
とりあえず部屋の隅に畳んで寄せていた布団を引っ張り出して敷き、そこに寝ろと指示を出した。
これだけ熱出てたら汗もかいてるだろうけど、他人に貸せるような未使用の服はないし、女の子の着替えを手伝えるほど人間出来てないから無理。
「おい、寝てろよ。起きてたら治らないぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
冷えピタ探して、常備薬探して、寒くないように部屋温めてとうろちょろしているおれに対し、彼女は布団の前に立って動かない。
やっぱり体調不良とはいえ見知らぬ男の部屋に引っ張りこまれて警戒してるんだろうか。
普通に考えたら警戒するよな。
というか一人暮らしの男の家に女の子連れ込むって、世間様の目も厳しくなる状況だよな。
年齢差が開いているならまだしも、おれと彼女の外見はどう見ても同年代だし・・・・・・・不純異性交遊では断じてないんだが。
「・・・・える・・・」
「あ?」
「・・・かえる。めいわく、・・・・から・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
熱があるからなのか、たどたどしく、そう言う。
ならとっとと出て行くなりすれば良いのに、彼女はその場を動かない。
つまりそれだけ熱が高いってことで、さっき測った時より上がった可能性があるわけで、そんな自分の意思通りに動かない体で何言ってんだか。
「ぁ」
「寝・て・ろ」
病人、それもおれより力の弱い女の子を転がすのは簡単で、あっさり横になってくれた彼女に布団をかける。
もちろん肩までしっかりと。
小まめに日干ししているものの普段ヤローが使ってる布団だから臭うかもしれないが、それは勘弁。
「迷惑じゃないから。迷惑だったら、部屋に入れたりなんかしない」
「・・・・・・・・・・・・」
「おれは変なことは何もしないし、気になるなら部屋出てくから、・・・・少しでも熱下がるまで寝てろ」
「・・・・・・・・・・・・」
無言は肯定ととるぞ。
冷えピタをぺちりと貼って、薬を用意して飲ませて、お粥も作って食わせた。
そうして甲斐甲斐しく世話していたら気がつけば彼女はしくしく泣いていて、そんなに嫌か!と落ち込んで部屋出て行こうとして
――ズボンの裾掴まれた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・あー、わかった。ここにいる」
座り直して、ため息をつく。
涙目ですがりつかれて振り払えるなら、ここまで世話しない。
というか、おれは何をしているんだろう。
お人好しお節介焼きとは言われ慣れているけど、普段のおれならこんなことまでしない。
いくら体調不良の女の子とはいえ他所様で、心配なら病院に連れて行くとか家まで送るとか無難な方法を選んだはず。
そんな選択肢すら浮かばないなんて馬鹿か。
(・・・なんというか、放って置けない感じなんだよなー)
彼女が寝入ってから、彼女に申し訳ないと思いつつ手荷物を漁って生徒手帳を見た。
親御さんに連絡入れて迎えに来てもらおうと思ったんだが、掛けても掛けても繋がらなかった。
仕方なく留守番に伝言を残して、気づいたらかけ直してくれるだろうと思って、
・・・・・暗くなっても掛かってこない電話に呆れた。
ある意味彼女を部屋に引っ張り込んだおれの行動は正解で、失敗。
「・・・・いくらでも頼れ、迷惑じゃないから」
こぼれた涙を拭ったら、苦しそうな寝顔が少しだけ和らいだ気がした。
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