02
「待っていたんです、三島くんを」
「おれを?」
「ん!」
「あ、全部食べたのか。おれオススメの金平ごぼうパン試したか?」
「・・・・試した。美味かった」
城島から差し出された紙袋を受け取って、その中身が綺麗に洗われたタッパーだとわかると思わず頬が緩んだ。
どんな事情かは知らないし聞かないけど、こいつらは親も保護者もなく外国から日本に渡ってきてそのまま子供三人で暮らしているらしい。
そして三人とも料理なんてさっぱりで外食・弁当屋・コンビニ通いの日々らしく、その乱れまくった食生活に危機感を覚えたおれはおかずを作ってはタッパーに詰めて無理やり渡していた。
そうやってお節介を焼いているうちに、タッパーも洗って返すようになったんだから良い傾向だと思う。
「今日はお別れを言いに来ました」
「お別れ?」
「ええ、僕たちはもう貴方の前には現れません」
「・・・・故郷へ帰るのか?」
「そんなところです」
「・・・・・・・・・・・・」
微笑みながら説明する六道の後ろで、城島と柿本は沈黙している。
城島とは目が合わないけれど落ち込んでいて、柿本は相変わらずの無表情だけど寂しそうで、そして六道は笑っているのに目が笑っていない。
青と赤、色違いの不思議な瞳の奥に暗い影が揺らぐのが見えた。
「・・・・ちょっと待ってろ」
何か言われる前に身を翻してアパートに駆けた。
夜9時で近所迷惑になるという意識も抜け落ちて、螺旋階段や通路をカンカンカンと鳴らしながら走ってバタンと戸を開け放って、そしてバタバタと買い置きしていたパン全部と作り置きして凍らせていたおかずやご飯をタッパーに詰め込んで、部屋から飛び出した。
「やる」
走って走って走って戻ったら、あいつらはまだそこにいた。
それに安堵しながら、唖然とするやつらに返されたばかりの紙袋を突き出した。
「三島くん、」
「適当に食え」
「・・・・こんなに貰えない」
「餞別だ」
「返しになんかこれねーし!」
「返しにこなくていい」
でかいタッパーなんて男の一人暮らしで使わない。
冷蔵庫に入れると場所取るし、弁当箱代わりにしようとしたら行楽用にしかならない。
だから元々お前らにやるために買ったんだ。
そういう訳を伝えるだけなのに、この短距離で息切れしたせいでうまく言えない。
そんな自分にムカつきながら、城島の胸にぐいぐいと紙袋を押し付ければどうにか受け取ってもらえた。
「さよならは言わない」
だからそんな泣きそうな顔すんな、また会いに来ればいいだろ。
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