02




「オレが第一号だ。光栄に思え」


(・・・・何だろう、この既視感)



 何かがおかしいのに、何がおかしいのかわからない。



 これまでの異常体験から結構麻痺していたおれの常識の中でも、目の前の赤ん坊の存在はスルーするには余りある存在だ。


 見た感じ一歳になるかならないかの赤ん坊に、あったらおかしいものがある。


 しかも“おかしい”と気づきながらも、それを見るのが“初めて”ではないことにモヤモヤした。



(・・・・・どこで見た? いや体験した?)


「さて、光栄に思うのはどちらだろうな。春幸のは病みつきになるぞ」


「え?」


「そりゃ楽しみだな」


「ちょ、」


 おれがモヤモヤと悩んで固まっている間にも、マスターとお客さん?の間で話はまとまったらしい。

 気がつけば、おれが淹れたばかりのエスプレッソコーヒーがお客さんの前に置かれていた。

 そしておれが止める間もなく、お客さんはその紅葉のように小さな手でカップを軽々片手で持ち上げて小さな唇にもっていった。


 こくりと喉が動く。


 それを見つめておれの中も荒れた。

 お客さんに出せるようなものじゃないのに!という気持ちもあったけど、赤ん坊にカフェインってダメなんじゃ・・・っ!? いやでもマスターがすすめたし大丈夫なのか・・・っ!!?という意味でも混乱した。



「・・・・・なるほどな」



 何か、深みのある声音がこぼれた。


 それが目の前にいるお客さんの口から紡がれたのだと気づいたのは、カップがソーサーに戻された時。

 カップの中は半分以上が消えていて、消えた液体が目の前の存在の中に入ったのだと知らされた。



「てめーが気に入るはずだ」



 磨き上げられた黒曜石のような瞳がきらりと輝く。


 声は相変わらず赤ん坊らしい甲高さなのに、紡がれる声音の深みにざわりと背筋が震えた。


 戦国時代で鍛えた勘が訴える





――“このお客さんは只者じゃない”と。





「春幸、久しぶりにお前の作ったパスタが食べたい」


「・・・・マ、マスター?」


「春幸も学校帰りで腹が減っているだろう。食材はいくらでも提供するから作ってくれないか?」


「そういえば、てめーはコーヒーしか淹れられねーんだったか」


「リボーン、ネタばらしはいけないな」


 二人のやりとりに若干緊張した身体が脱力する。

 思い返せば・・・・コーヒーに合う市販のクッキーなら添えて出してもらえるけど、基本はコーヒーしか出ない店なんだよねこの喫茶店。

 だからコーヒー通以外のお客さんが寄り付かないわけか。なるほど納得。





「――わかりました、作ります」





 作って差し上げますよいくらでも!


 マスター大好きなイタリアンパスタにデザートまでつけて差し上げましょう!



 お客さんの分もね!









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