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(最強のセコ●がついていても、行きたくねーーーーッッッ!!!)
とはいえ時間は無情に過ぎていくもの。
鉛のように重い足でも、歩き続ければたどり着くもの。
どでんと現れた応接室の扉を前にして、おれは深い深い溜息を吐いた。
応接室に着くまでに、もしくは応接室の前にでも風紀委員の誰かが立っていればそいつに頼んで帰ることも出来たのに・・・・・・ついてない。
「失礼します」
それでも帰るわけにはいかないと、おれはノックをして応接室の扉を引き開けた。
空調の効いた室内に朝日が差し込んでいて、常緑樹の観葉植物の葉を白く輝かせている。
その部屋の奥に置かれた重厚な机とセットの巨大な肘掛け椅子に座っていた風紀委員長 雲雀恭弥が顔だけを上げて眉をひそめた。
普段から鋭い目つきなんだけど、今日は一段と鋭い。
ああやばい不機嫌だ。
今すぐ逃げたい。
「なに?」
「あの、これを頼まれました」
年齢不詳とはなっているが、多分精神年齢ならおれより年下だろうその人。
だからなんだ。
年下にぞんざいにされて気にするようなプライドなんて持ち合わせていないから、普通に使うさ相手を敬う語。
「どうぞ」
扉の傍で突っ立っていても苛立たせるだけだから、自分から歩み寄ってプリントやらファイルやらを差し出せば、意外にも静かに受け取ってもらえた。
「あ、この一枚は急ぎらしいんで、目を通して問題なければサインお願いします」
校長差し置いて備品の追加請求の許可を出すのが風紀委員長ってどうなんだろ。
でも面倒な事務処理を片付けてくれるし、下手な警備会社を呼ぶよりしっかりしているから、教師たちは楽・・・・でもないか。
いつボコボコにされるか、教職を剥奪されるかという恐怖と隣り合わせなんだから。
・・・ふと気づけば、風紀委員長の眉間に皺が寄っていた。
まさかボコられるッ!!? と一瞬体を強張らせたが、彼の視線がおれではなく机の上をうろうろさ迷っているのに気づいて胸を撫で下ろした。
「・・・・・・使います?」
「・・・・・・・・・・」
たまたまブレザーの胸ポケットにぶっ刺していた万年筆を引き抜いて差し出すと、風紀委員長はわずかに目を丸くしてそれを受け取った。
白い紙の隅に「雲雀」と綺麗な字がさらさらと流れる。
今更だが、別に印鑑でもよかったんじゃないかと思う。
まぁ今更だ。今は、機嫌が良さげに見える風紀委員長の方が問題だ。
「・・・・・気に入ったのなら差し上げますが」
「なんで?」
「困ってたんでしょう・・・?」
「・・・・・・・・・・・」
使いやすくて気に入ってたんだけど、風紀委員長の方がおれより使用率高そうだし、また買えばいいやと思う。
ボコられずに済むんなら、これくらいお安いご用だろ!
「・・・・・・うん、ならもらう」
男から見ても綺麗だと思う顔を緩めて、風紀委員長は口元に笑みを形作った。
おれはそれにほんの少し驚いて、けれど何も言わず一礼して、応接室を後にしたのだった。
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