先輩とのティータイム
「先輩なんて呼ばれるのは、久しぶりだよ」
「えっと、教授と呼んだほうがいいですか?」
「いや、君に教授だなんて呼ばれるのは、くすぐったいな」
そう言って紳士の優しい微笑みを見せる彼。
ときどき駅などで会うことはあっても、こうして喫茶店で話すのは初めてだ。
学生時代も、こんなことはなかった。
「グレッセンヘラーカレッジに寄っていくかい? 研究室でお茶でもどうかな」
「え、いいんですか?」
「ふふ、当たり前さ」
彼は車のドアを開き、レディーファーストで乗せてくれた。
もちろん後部ではなく助手席。
「それにしても、教授だなんて」
「はは、まだまだだけどね」
「デルモナ学長はお元気ですか?」
「ああ、もちろんだよ」
信号を過ぎ、バスとすれ違い、角を曲がり。
着いたのは、懐かしき母校、グレッセンヘラーカレッジ。
「散らかった部屋だけど、考古学を学んでいた君には興味深い資料もあると思うよ」
彼の研究室は、とても片付いているとは言えなくて、けれど彼なりの秩序をうかがわせた。
ついこの間ニュースを騒がせた出土物の資料もちゃっかりある。
「うわぁ…」
考古学が好きで好きで仕方がなかった。けれど職がなく諦めざるを得なかった自分にとって、その空間は無意識に目の輝く部屋だった。
「ははは、昔と変わらないねエレン」
「こんな部屋で毎日を過ごせるなんて、羨ましすぎます!」
「そうかな?」
ふふ、と笑う彼。
「誰もいない研究室でひとり、遺物や写真とにらめっこをするのは、なかなか寂しいよ」
冗談めかして彼は言った。
思わず笑う。
「先輩が寂しがるだなんて、想像できないです」
「いや、想像してもみなさい。月のない夜なんか電気の冷たい明かりだけで、仮面に囲まれて過ごす自分を」
「あ、自分に置き換えるとなんだか納得しました」
「そう、私も同じことさ」
彼は上着をフックに掛け、窓を開ける。
「そのソファーにでも座っていてくれ。紅茶を淹れるから」
「ありがとうございます」
彼はお湯のポットのほうへ向かう。
とりあえず言われたとおりにおとなしくソファーに腰掛けた。
改めて部屋を見回す。
考古学の資料の多さとすばらしさには相変わらずため息が出るが、
「誰にでも優しいんですね、先輩」
「なぜ?」
生徒から送られた物の多さが目立つ。
すこし寂しくなった。
「生徒さんにも慕われているみたいですし」
「…ああ、それは、」
こちらの視線が何に向いているかに気付き、彼は持ってきた紅茶をテーブルにそっと置いた。
「……クレアが作った、ナゾだよ」
「 ! 」
ものすごく触れてはいけない話題だったような気がした。
彼はそっと、カラフルで不可思議な立方体をを手に取った。
立方体が、さらにたくさんの立方体に分割されていて、一面に九つの正方形が見える。
くるりと一列を回転させ、彼はこちらの手のひらにそれを乗せた。
「おもしろいだろう? 全ての面で色をそろえる遊びなんだ」
そのうちきっと、どこかの会社が特許を申請するに違いない。
と彼は肩をすくめた。
「……1面しかそろいません!」
あれこれ試行錯誤してみたが、なかなか難しい。
バラバラの状態ならばこんなにも簡単なパズルはないだろうに、不思議だ。
「ふふ、貸してみなさい」
彼はいとも簡単に6面全てをそろえて見せた。
「うわ、すごい!」
「解き方を覚えてしまっただけさ」
そういって微笑む彼はきっと、何度も何度もこのナゾを解き、そしてクレアさんを想ったのだろう。
彼の笑顔は、あのときからいつも、強くあるための笑顔だ。
英国紳士であるための笑顔だ。
「お茶が冷めてしまうよ」
部屋に一つしかない2、3人掛けのソファー。
彼が隣に座った。
たぶん、普段は生徒たちがやってきて掛けるためのものなんだろう。
「砂糖はいくつ入れる?」
「あ、二個…」
彼の器用そうな指先が角砂糖をつかみ、二つ、紅茶に落とした。
ぽちゃん、と音を立てて、砂糖が溶けていく。
カップを手に取り、天井を見る。しばらく沈黙が流れた。
嫌な沈黙じゃないな、と思った。
心地いい。
「…」
「…」
ふっと、彼がこちらに目線を向けた。
それに気付いて、見つめ返す。
「…」
「…」
「…」
「…」
「……ぷっ」
思わず吹き出した。
二人して、あはは、と笑う。
「なんで私たち、見つめ合ってるんでしょう」
「すまない、ぼやっとしていたよ」
自然な笑み。
そうやって笑う、先輩が好きだ。
大学の頃のままの、先輩が好きだ。
「先輩」
「ん?」
「好きですよ」
「ああ、私もだよ」
(お互いに)
(ただ友人として)
Fin.
優しくてほのぼのなレイトンが好きです。
そばにいるだけで安心しちゃいそうですよね(^^*
たぶん、これから先も恋人設定にはならないと思います。
先生にはクレアを思い続けていて欲しいので><
甘々な夢小説はきっと、私には期待できないと思います。
シリアスしか書けないです。友達・妹扱い止まりです。
それでも良い方は見守ってやってくださいoyz
2011.7.12
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Professor Layton