遅すぎた涙











あれは10年前のことだ。






煙を上げる研究室を見て、
教授になったばかりの男は立ちつくしていた。




「クレア」




人混みにまぎれ、その声は誰にも届かない。



ただ、燃えている。


愛しい人がいるはずの部屋が。




ぎりぎりと奥歯が鳴る。




なのに自分はどこか冷静だった。




涙が出ない。





小さな少年が、泣き叫び、煙を上げる建物群へ駆け寄ろうとした。





考えるよりも早く、手が動いていた。




なにを言ったかなんてよく覚えていない。



だが、頬を張ったその柔らかな痛みだけ、今もこの手に残っている。







あの子は今どうしているだろうか。


立派に、強く生きてくれていることを願う。





そして、



「…クレア」



また君を夢に見てしまったよ。




笑ってくれ。こんなにも頼りない英国紳士を。




「君に会いたいよ」




10年もの間、それが自分の一番の願いだ。



人はいつか死ぬ。決して生き返ることはない。




そんなことは分かっているはずなのに。
考古学者が聞いて呆れる。





「ルーク。アロマ。レミ。ローザ。クラーク。ランド。ジェレミー」




まぶたを閉じて思い浮かべる、大切な人達。



誰でもいい。

そばにいて欲しい。




デスコールでもドン・ポールでもいい。




そばにいてくれるなら。


誰だって。






「クレア――…」






けれどもやはり君がいいと思ってしまうのは、




単なるわがままで。






あの時、少年の頬を張った右手。






今はただ、遅すぎる悲しみに震えている。







(さよならも言えなかった悲しみ)
(ああ、今頃になって泣きたくなった)





Fin.




いつも冷静な先生。
本当の悲しみに気付くのは10年も経ったあと、なんて話です。

最後の時間旅行直前なイメージでお送りしました(私の中では)。

レミとデスコールは死んじゃうんでしょうか…?
不思議な町の時点で消滅してるので><

だとしたらレイトンには、
辛い過去が多すぎやしませんか…。


2011.7.3

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