最高の休日











たまには息抜きも必要だと思って。


ウインドウショッピングをしながらアーケード街を歩いていたところ、
彼に声をかけられたのだ。

「おや、エレン?」

ひとつ向こうの道から歩いてきた彼は、帽子のつばを押さえて小首をかしげた。
その、彼という存在に胸が高鳴る。

「先輩!」

思わず笑顔で答えると、彼も微笑んでシルクハットを押し上げた。

「奇遇だね。いつも会うのは駅なのに」

「今日はどうしてここに?」

「講義が午前中で終わって、久しぶりに暇があったんだ」

確かに、彼の手には仕事帰りと思しきカバンがある。

「ご一緒しても構わないかな?」

「はい、もちろん!」

彼と過ごせるなんて最高の休日だ。

思わず笑顔になり、彼のとなりを歩く。
どうやら、彼は歩く早さを合わせてくれているらしく、まったく無理のない早さだった。

彼と一緒に歩いているというだけで、目に映るものすべて特別に見える。
既製品のワンピース。ありふれたショートケーキ。よく見かける傘。
すべて、1つ1つが輝いている。

「…ところで」

彼は首をかしげた。

「君は、甘いものが好きかい?」

「え」

なぜいきなりそんなことを聞くのかと、戸惑った。

彼はその動揺を読み取ったように、ふふ、と笑った。

「いや、ケーキのおいしいお店があると生徒にすすめられてね。よかったらどうかと思って」

「あ、はいそういうことならご一緒します!」

「ありがとう」

彼は素直に笑っていた。






「…飲み物はいかがいたしましょう?」

まるでカフェのような、おしゃれな店内。
ケーキの並んだウインドウの前で、注文をする。

店内にイートインが設けられており、ちょうどいいのでそこで食べようということになった。

「えっと…」

悩んでいる間に、彼は紅茶を注文したようである。

「えっと…」

「…」

「えっと…」

「…」

「…ココアで」

「かしこまりました」

店員さんは手際よく注文どおりのものをそろえる。

「君は、先に席に行っていなさい」

彼が指差した席。窓際の、光のよく入る場所。
おとなしく従う。ケーキは彼が選んでくれるらしい。

先輩に任せたら間違いはないだろうな、と思った。

道行く人々が楽しそうに話している。
家族連れであったり、友達同士であったり、恋人同士であったり。
幸せそうだ。

「お待たせ。…何を見ているんだい?」

彼がテーブルの上にトレイを置いた。

はっと我に返り、彼に視線を戻す。
彼は、窓の外を見ていた。

「ああ、幸せそうだね」

「 ! 」

声も出ないほど驚いた。

彼はこちらに視線を戻した。

「先輩、超能力でも使えるんですか!?」

「まさか。君、考えていることが顔に書いてあったものだから」

ふふふと笑って、彼はテーブルを挟んで向かいの椅子に腰を下ろした。

はい、とココアを手渡され、あわてて受け取る。
思わず「熱っ」と落としそうになった。

「…大丈夫かい?」

「はい…すみません」

「はは、私に謝ることではないよ」

さあ、先に選びなさい。

トレイの上には4つほどお菓子が置かれていた。

スタンダードなのにセンスの良さを感じさせる苺のショートケーキやら、クリームたっぷりのシュークリームやら、上品な色とデザインのモンブランやら、女の子なら誰だってときめくカラフルなパフェやら。

迷ってしまう。

「…先輩は?」

「私は残ったもので構わない」

そんなこと言われても…。

「えっと…」

「…」

「…」

「…………半分ずつにしようか」

「あ、はい!」

彼は苦笑して、シュークリームを半分に割った。

彼から見て右側の分が、ほんの少し小さくなった。

「はい、どうぞ」

彼は左手の分を差し出してきた。
強いて言うなら少しクリームの多い方。

「そんな、私、小さい方でいいですよ」

「いや、女性に譲るよ。英国紳士としてはね」

紳士的なほほえみを浮かべ、彼はその手を引かなかった。

「…ありがとうございます」

彼の手から半分のシュークリームを受け取り、
こぼれ落ちそうなクリームをそっと舐めとる。

上品でかわいらしい甘さが舌に広がる。

「おいしいかい?」

「はい! こんなおいしいお菓子初めてです!」

思わず顔面に喜色をたたえて力説してしまった。

「ふふ、それはよかった」

そして、2人ほぼ同時にシュークリームに口をつけた。

「…」

「…」

味わうように咀嚼し、しばしシュークリームを見つめる。

「…これは、確かにおいしいね」

彼も少し驚いていた。

「ですよね! ふわふわで甘くてふわふわでふわふわで…」

「…そんなにふわふわを強調したいのかい?」

片手にシュークリーム、片手にティーカップを持って、彼は笑った。

「だってふわふわですもん!」

「ははは、やはり変わってないな、エレン」


さて、次はどれをいただこうか?


最高の休日。彼もそう思ってくれたことを願う。


(「このパフェもおいしいです! ほら!」)
(「…ああ、君が半分食べてからでいいよ」)



Fin.




ばなな様に捧げます。
ご期待に添えたかどうか果てしなく不安ですが…orz
相互本当にうれしいです! の割に遅くなってすみませ…!

ほのぼの…のつもり…((
お菓子とか素敵だなと思ったら、甘くなっちゃいましたorz

こんな駄文ですが
ばなな様のみお持ち帰り自由とさせていただきます*

2011.7.25

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