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《side FBI》
酒屋に三人の大人がいた。
一人は灰色の髪の年配の男性、一人は黒髪の男性、一人は茶髪の女性だ。
「いいお酒を選ばなきゃね」
「おいおい。高いのはよしてくれよ」
その日三人は長引く捜査の息抜きにお酒を買いに来ていた。
酒を物色している最中にジョディが『バーボン』と書かれたボトルに目を落とす
「バーボン。組織に再び潜入した水梨レナから情報を得て暫く立つが」
「一向に姿を見せませんね。その探偵のようなな奴」
「バーボンの標的は恐らく組織でシェリーと呼ばれていたあの少女。今までの経緯から察すれば我々FBIが関与していると組織に思われていても可笑しくはない。何らかの形で我々に接触してくるかと思っていたが」
「そうですね。あの少女が使った盗聴機と同じものであの毛利探偵事務所に組織を誘きだし、それをFBIが迎撃したわけですから」
「最も、実際に盗聴機を仕掛けたのはあの江戸川コナン君だったようだがな」
ジョディとジェイムズの会話にキャメルも加わる
「そう言えばそのお酒、あの人も好きでしたね」
「えっ?」
「赤井さんですよ。その誘きだした奴等を七百ヤード離れたビルから狙撃したのも赤井さんだったんですよね」
キャメルの台詞に二人は息を飲む。
赤井というFBI捜査官はすでに死んでしまった人物だったからだ。
「あれ?違いましたか?」
「あ、ああ。いや、そうだったが」
「赤井さんがいればバーボンなんて奴にビビることもないんですけどね」
キャメルのその些か配慮にかける言葉にジョディは激昂したようにキツイ物言いで声を投げ掛ける。
「ビビってなんかいないわ。私たちは組織が焦れて動き出すのを待っているだけ。それに赤井秀一は死んだのよ。もう二度とその名を出さないで。先に車に戻っているわね」
「あ、はい」
そのままジョディは入口に向かい、外に出た。
そんなジョディを見て、ジェイムズは諌めるよう言葉を連ねる。
「少しは気を使ってくれ。彼女にとって赤井君はただのFBIの同僚ではなかったんだから」
「ええ」
キャメルは素直に返事をした。
一人、大勢の人々が歩く道路をジョディは歩いて行く。
先程話題に出てしまった赤井秀一を思い出しながら。
皮肉にも、思い出したのは彼との別れの日だった。
彼は、捜査のために組織のある女と付き合うために別れて欲しいと言っていた。
二人の女を同時に愛せるほど器用な性分じゃないんでね、と。
生真面目な男だった。
(それでも良かった。一緒に仕事が出来るだけで良かったのに。秀、どうして?どうして貴方は、そんなに早く)
感傷に浸っていると見覚えの有りすぎる、だが存在するはずのない人物の姿を捉えて目を見開く。
(しゅう……?)
まさか赤井秀一かと思い、探し出す。
「ちょ、ちょっと待って、秀待って、秀、秀ー!!」
追い掛けたはずなのに彼の姿はすぐになくなった。
(間違いない。あれは秀。でも彼は死んだはず。まさか、よく似た別人?だめ。確かめなきゃ)
会いたいと思いまた足を踏み出したところで後ろから肩を捕まれた。
振り向くとそこには上司のジェイムズとキャメルがいた。
「どうしたんだね?私はこんなところに車を置いた覚えはないが」
「あ、いえ」
「まさか組織の誰かを見かけたんですか?」
「そんなんじゃないわ。ただ道に迷っただけ」
ジョディは必死に彼は別人だと、幻だと自分で自分に言い聞かせた。
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