廃ビルへ行くまでの経緯

※東堂家が旅館の裏で祓い屋をやっている


春休み、福富の強い希望で総北の金城、田所、巻島を招き、東堂家の旅館の離れで宿泊会をしていた。二泊三日で箱根の観光をしたり、大自然の中をバイクで走ったりする計画だ。

「で、その時靖友が…」
「新開やめろ!」
「なんだよ聞かせろって」
「靖友がシャワールームで滑って…」
「わーわーわーわー!やめろっつてんダロ!」
「腰に巻いてたタオルが…」
「新開!!!!」

「うるせ…」
「まぁまぁ巻ちゃん。ほらコップを出せ。今度は青森のリンゴジュースだ」
「ん」
「東堂」
「フクも飲みたいのだな!金城はどうだ?」
「いただくとしよう」
「うむ!どんどん飲むのだよ!」
「酒勧めてるみたいッショ…」

東堂の父が差し入れてくれたジュースを片手に、七人は思い思いに過ごしていた。まだ寒さを感じる季節だが、長く続く老舗旅館なだけあって、空調は完璧である。明日は、旅館の裏手にある山を走ろうということで、そろそろ寝るかとなったとき、東堂の姉が訪ねてきた。

「尽八、おばあ様がお呼びよ」
「おばあ様が?」

東堂と、まだ東堂の祖母に挨拶をしていないからという一行が、呼びつけられた部屋に入ると、見慣れぬスーツの男性がいた。

「まさか、尽八が陰陽師だったなんてな」

スーツの男性は、廃ビルを買い取ったというオーナーだった。ビルで次々と起こる怪奇現象をなんとかしようと、祓い屋を営む東堂の祖母を訪ねたのである。東堂はまさか、友人たちの前で、祖母がそういう話をするとは思っていなかったので、非常に驚いた。しかも、その依頼を東堂に任せると言うのである。

「陰陽師ではない…」
「祓い屋、と言ったか」
「それ俺らが聞いちまってもよかったのかヨ?」
「良いわけなかろう。言うつもりなど毛頭無かった」

少しむくれ気味の東堂を囲みながら、みんなで支度をする。

「というか、なぜお前たちが行く気満々なのだ!」
「「「「面白そうだから!」」」」
「遊びではないのだぞ!」

それに、フクと金城と隼人はつれていけない!と、ビシッと指をさしながら言い放つ。

「え?何で?」
「隼人、お前に霊感はない!行っても何も見えないし、ハッキリ言って役立たずだ!」
「や…役立たず」
「それにフクと金城は憑かれやすいのだ…危険すぎる。絶対に駄目だ」
「そうなのか」
「ほぉ…」
「金城、ほぉ…ではない!」
「俺らは?」

幽霊とか見たことあるッショ、と俺も俺もと盛り上がる荒北、巻島、田所の三人。

「霊感はそれなりにあるようだが…」
「じゃオッケーだな!」
「いやしかし…」
「俺たちはここで待機してるよ!何かあったら連絡してくれ。何でも手伝うからさ」
「はぁ…もう好きにしろ」

正直、初めて正式な仕事を与えられたこともあって、一緒に来てくれると言うのは心強い。素人を現場に連れていくなど言語道断だ、という想いと一緒に来てほしいという想いがせめぎ会う。しばらく考え込み、まぁ廃ビルを調べるだけだし、大丈夫だろうという結論に至った。


オーナーに指定されたビルは、鉄パイプの骨組みと、緑のネットで覆われていた。解体作業は、あまり進んでいなかった。

「ここか…」
「見るからに出そうだな!」
「田所っち楽しそうだな」
「ワクワクするじゃねーか!」
「遊びではないのだぞ」
「おう!」
「おら東堂、早く行こうゼ」
「よーく注意して進めよ」
「へいへい」

荒北の適当な返事に睨み返してから、ビルの中へと足を踏み入れた。一見何も居ないようにみえるが、不穏な気配を感じる。

「あっちから妙な臭いがするゼェ」
「初っぱなからでかそうッショ」
「殴れっかな」
「無理はするなよ…」
「「「おう!」」」

そして、彼らの戦いが始まったのであった。


おわり


2013年12月31日(火) 相坂

支部にある某シリーズの一幕

[ 11/11 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -