家族になろうよ

疑似家族シリーズ

○家族になろうよ

「「うわっ!」」

兵助に突き飛ばされて、勘右衛門の上に倒れた俺を、彼はしっかり受け止めてくれた。

「あ、ありがとう」
「っ!」

バッと体を放す。長い沈黙が続いた。やはり来ない方がよかったかな。勘右衛門は俺に会いたくなかったんだろう。全く目が合わない。

「ごめんな」
「・・・・」
「一つだけ、言いたいこと言ったら帰るから」

本当は、言いたいことはたくさんある。迷惑なんてかけられてないとか、嫌々夫婦ごっこをしていたわけじゃないとか、俺が嫌だったのは妻だのなんだのと女扱いされることだとか。電話で兵助に言われたようなことは言わない。でも、シンプルに自分の気持ちを伝えようと思う。

「俺さ」
「・・・・」
「まだまだ勘ちゃんと一緒に暮らしたいな」
「え?」
「喜八郎や孫兵もそう思ってると思う」

勘右衛門との疑似夫婦、本当は口で言うほど嫌じゃなかった。重い買い物袋を然り気無く持ってくれる優しさや、喜八郎や孫兵に勉強を教える面倒見の良さ、器用に友人の好物をアレンジしてみせたり、一つの布団で寝ている時は俺が寝難くないようにしてくれたり、勘右衛門のいいところをたくさん知った。カッコいいんだよな、やっぱ。

「でも、勘ちゃんが嫌なら無理強いはしない。ただ時々でいいから、あいつら構いに来てやってよ」

な。っと笑ってみせるが、頬がひきつっている気がする。あれおかしいな。目の前にいる勘右衛門の顔が曇っていく。

「ハチ、どうして泣いてるの?」
「え?」

泣いてる?そうか、俺は泣いているのか。そう自覚した瞬間、急にとても悲しさを感じた。何が悲しいのだろう。勘右衛門と夫婦ごっこをやめること?いや、勘右衛門と一緒にいられなくなることだ。だけど一緒にいられなくなると言っても、一緒に暮らさないだけで学校にいけば会えるのに・・・・。勘右衛門が許してくれれば、また前みたいに友達として付き合っていくことはできる。今まで通りに戻るだけ。また三人になるだけ。あ、違う。いまはジュンコもいた。それなのに、どうしてこんなにも心がギュっとなっているのだろう。

「・・・・あ、そうか。俺は勘ちゃんが好きなんだ」

ストンと胸に落ちてきた。いや、今までだって好きだったけど、そうじゃなくて・・・・そうじゃなくて、何なんだろう。自分の気持ちなのによくわからない。

「ハチ・・・・それは、どういう意味?」
「意味?」
「どういう意味で、俺が好きなの?」

どういう意味で?そういえば兵助も電話で意味はどうのと言っていた。好きの意味を問われて俺が知っているのはLOVEとLIKEだ。以前までの好きは確実にLIKEだった。じゃあ今は・・・・?

「LOVE?」

涙はいつの間にか止まっていた。カーッと顔に熱が集まる。マジか、俺マジか!やばいすっごく恥ずかしい。一刻も早くこの場から立ち去るべきだと判断して、慌ててドアノブに手をかけたその時、待って!と引き留められた。

「Do you love me?」

ゆっくり、英語がそんなに得意ではない俺にもわかる簡単な英文で勘右衛門が問う。なんで英語なんだよ。

「Yes」

後ろで息を飲む音が聞こえた。背中を向けていてよかった。とても見せられる顔じゃない。言いたいこと言ったし、もう帰ってしまおうか。しかし、いつの間にか後ろに来ていた勘右衛門に、ギュっと抱き締められてそうはいかなくなった。

「I love you too」
「え?」

耳元で囁かれた言葉を思わず聞き返した。

「俺はもうずっと前からハチが好きだったよ」
「う、うそ?」
「本当。そういうハチこそ嘘じゃないよね?」
「わからない。けど、LIKEじゃない」
「そっか」

ドアノブにかけていた手を外されて、体を反転した先に見た勘右衛門の顔は、俺に負けず劣らず真っ赤である。でも、今までに見たこともないふんわりとした笑みを浮かべていた。そっと、目尻に残っていた涙を拭われる。

「ねぇ、じゃあさ、俺が奥さんって呼んだあとに複雑そうな顔をしていたのはどうして?」
「それは、俺は男なのに、女みたいにされるのが嫌だっただけだよ。夫婦ごっこがしたいなら、俺を女の代わりにするんじゃなくて、勘ちゃんモテるし、本物の女の子とすればいいのにって」
「残念。俺はハチじゃないとダメなんだ」
「もしかして、それで迷惑かけてるとか嫌々付き合わせてるとか言ったのか?」
「うん。だけど全部、誤解だったね」

兵助のベッドまでエスコートされた。二人でそこに腰かける。

「これからも、一緒に家族してもいいかな?」
「もちろん。喜八郎や孫兵やジュンコも喜ぶ。頼むぜお父さん」
「了解。よし!じゃあ頑張りますか、お母さん!」
「え?」

トンッと肩を押されて後ろに倒れた俺に、勘右衛門が乗り掛かってきた。嫌な予感・・・・。

「な、何を頑張るつもりだ?」
「子作り!」
「は!?」
「ジュンコも下に弟か妹がほしいと思ってるよきっと!四人目いきますか!」
「いきません!ちょっ、勘ちゃん待て待て待て!」
「ずっと我慢してきたんだもん。いいよね!」
「よくない!ハウス!」

さっきまで感動の和解シーンというか両想いになっていい雰囲気だったのに、こいつぶち壊しやがった!抱かれるのは構わないけど、もっと流れを考えてほしい。しかも友達の部屋でなんて無理だ!

「ここ兵助の部屋だぞ!?」
「前に兵助が貸してくれるって言ったよ?」
「そうだけど、いまはダメッ!」
「えー?」
「喜八郎たちが待ってるから!とにかく帰るの!」
「わかった」
「え?」

思っていたよりもあっさりと引いた勘右衛門に拍子抜けした。

「子供のこと出されたら、お父さんとして引くしかないよね」
「あ、ごめん」
「いいっていいって。その代わり、次は何が何でもヤるからね」
「・・・・」

階段を下りて、リビングにいる兵助に声をかける。冷やっこ片手に俺たちを見て微笑んだ。

「やっとくっついた?」
「長い間心配かけたね兵助」

ありがとうと礼を告げて玄関へ向かう。来るときにさしてきた傘をとって外に出たが、あんなに降っていた雨はやんでいた。空を見上げて一言。

「相合い傘はできないな」
「これからいくらでもできるよ」
「それもそうか」

俺たちは手を繋いで、喜八郎たちの待つ我が家への帰路についた。

おわり

やっと一段落。
タイトル参照:福山雅治さんの同名の歌

2012.6/26

[ 38/113 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -