黒い布の男



○黒い布の男


小平太が滝夜叉丸と少年を担いだまま屋敷に戻ると、孫兵が目を丸くした。少年を指差して口を開く。

「三之助!なぜここに!?」

孫兵の両脇にいた左門と数馬は首をひねった。

「孫兵の知り合いか?」
「お友達?」
「いや、前に話した僕の相棒だよ。外法師の次屋三之助」
「「外法師!?」」

滝夜叉丸と三木ヱ門がすっとんきょうな声をあけた。外法師とは陰陽術だけでなく、妖術、法術などさまざまな術を融合して独自の術式をつくりあげる術師を指す。なんでもかんでも節操なしに取り入れてしまうから、基本的に陰陽師たちには嫌われている。この目の前でのん気にしているこの少年が外法師とは、にわかに信じられなかった。

「孫兵、友達に会いに行くって言ってたけど、ここだったのか」
「三之助こそ、異母兄弟を探すって言っていたじゃないか」
「どうやら賭博場にそれらしき子供が入っていたらしいんだ。でもなんか燃えてた」

左門と数馬は、興味津々に三之助を見ている。友達になれるかどうかそわそわしていた。

「いぼきょうだい?」
「ん?あぁ、孫兵の友達か。なんか俺の親父が山で迷子になった時に女を孕ませたらしいんだ。気になるから探してたんだけど、賭博場にはさっきようやくたどり着いたばっかりで何で燃えてるのかさっぱりわからないのに、いきなりこの人がいちゃもんつけてきてさぁ」

この人、と滝夜叉丸を指差す。

「こら三之助、人を指差すな。滝夜叉丸さんはお師匠様のこともあって火事に敏感になっておられるのだ」

いや孫兵だってさっき俺を指差したじゃんと言う三之助の呟きは空に消えた。

「滝夜叉丸さん、三之助が火事などを起こすことはあり得ません。もし賭博場の火事が三之助の手によるものなら、僕はここで切腹いたします」

だから三之助を信じてください。と言われて、滝夜叉丸はたじろいだ。

「あ、いや、私の方こそ疑って悪かったな」
「仲直りだな!」

小平太は三之助と滝夜叉丸を再び担ぎ上げた。

「わっ、ちょ!小平太さんもうやめてください!」
「高い高い!」

周りにいたみんなが笑った。

「滝夜叉丸!みんな一緒に笑ったぞ!これが友人か?」
「そ、そうですね・・・・下ろしてください」
「つれないなぁ」

二人を下ろすと、今度は左門が数馬の手を引いて近付いてくる。

「僕たちも!」
「えっ、いや僕はいいよ」
「よしきたまかせろ!ついでに孫兵も来い!」
「結構です」
「おーおーなんの騒ぎだ?」
「留三郎!」

ぎゃーぎゃー騒いでいるうちに留三郎、伊作、八左ヱ門が戻ってきた。文次郎が尋ねる。

「様子はどうだ?」
「そうだな。今回は誰もいなかったし何もなかった」
「ただ一つ、気になることはあったかな・・・・」
「気になること?」
「僕が降らせた雨で野次馬はみんなびしょ濡れだったんだけど、その野次馬の中に一人だけ全く濡れていない人がいたんだ」
「黒い布を頭から被った、みるからに怪しい男だ」
「怪しいな・・・・」
「その男が放火犯である可能性はあるんですか?」
「術を使いそうな雰囲気ではあったが、確認できなかった」
「このバカ留三郎!なぜそこまで確認しないんだお前は!」
「できなかったって言ってんだろうが!バカはお前だバカ!」
「なんだとっ!?」
「喧嘩だめ!」

掴み合いになり、伊作が止めに入ろうとするのを仙蔵が止めた。

「伊作、ことの次第が複雑かつ黒幕の正体が全くわからないから鬱憤が溜まっているのだ。この際殴り合いでもして解消させておけ」
「でも・・・・」
「どんな怪我をしても必ず治してくれるお前がいるから、気兼ねなく喧嘩ができるのだ」
「仙蔵・・・・じゃあ僕が治さなきゃ殴り合いはやめてくれるかな?」
「お前に治さないなんて無理だ。我慢できないだろう」
「・・・・まぁ」

そうこうしている内に、日は完全に落ちていた。


つづく


外法師については独自の解釈と捏造が含まれています。


2012.6/2

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