次屋三之助



○次屋三之助


「私たちは皆さんを式神として使役したいとは思っていません」





小平太は縁側に腰かけて物思いにふけっていた。先ほど滝夜叉丸に言われた言葉が頭から離れない。

「ご無礼を承知で言えば使役しされる関係ではなく友人としてお付き合いさせていただきたいと考えております、か・・・・」

思えば、あの見習いたちに降神の術で呼び出されてからずっと一緒にいたが、一度だって彼らは天将たちを頼ろうとしなかった。せいぜいしてやれたのは北の村に師の様子を見に行ったくらいである。

「友人って、どうすればいいのだ?」

いままで小平太たちを呼び出した陰陽師たちは、どちらもちゃんと使役して、一緒に戦わせてくれた。十二天将たちは同胞であり、誰よりも近い存在であるため友人とは違うだろう。天帝や他の神々は天将より上位だったり下位だったり様々だが、彼らとの関係に特別な感情は持ち合わせていない。おそらく他の天将たちも同じだと思われる。

「友人、友人、ゆ、う、じ、ん・・・・」

何度声に出してみても、ただの言葉の塊でしかない。と、そこへ滝夜叉丸がやってきた。

「あの・・・・」
「おぉ滝夜叉丸!いいところに来た。友人って具体的にどうすればいいのだ?」
「え?友人は・・・・一緒にご飯食べて、遊んで、泣いたり笑ったりして、お互いを好きでいることですかね?すみません言い出しっぺですがよくわからないです」
「う〜ん、いままでお前たちとやってきたことと変わらないな」
「えぇ、ですからそれでいいんです。ただ式神だの使役するだの言われるのが嫌だったというか、私も三木ヱ門も喜八郎もなんか違うなって思っていただけですので」
「そうなのか!じゃあ友人としてお前たちに指示を仰ぐのはいいのか?」
「指示を仰ぐじゃなくて、意見を聞くと言っていただきたいですね」
「ものは言いようだな」

はははっと小平太は笑った。

「あれ?」

東の空に煙りが立ち上っている。微かに赤いものが見えるからおそらくこれは・・・・

「家事だ!」

小平太は飛び出した。

「行くぞ滝夜叉丸!」
「は、はい!」

燃えていたのは先日も燃えていた賭博場の残りだった。野次馬の一部が一生懸命に水をかけている。その野次馬から少し離れた所に、滝夜叉丸には見覚えのある、狩衣を着た少年が立っていた。

「あいつ」

滝夜叉丸は炎を見つめる彼の腕をぐいっと引く。

「お前、次屋三之助だったな」
「あ・・・・」

少年は目を見開いた。

「そういえば以前、賭博場を探していたな」
「そうっすね」
「その数日後、ここで火事が起きた」
「へー」

滝夜叉丸がなぜか怒っている。小平太はこの少年に何かあるのかと気になったが、伊作と留三郎、八左ヱ門が駆けつけてきたので、まず火を消すことにした。といっても実際に消すのは水神の伊作であるのだが。

「伊作、消せるか?」
「当たり前でしょ。無理なら兵助も連れてきているよ」

そう応えて伊作は空へ舞い上がった。扇を出して一振りすると、雨雲が集まり、大雨が降りだす。八左ヱ門が滝夜叉丸と少年が濡れないように防御壁を頭上に翳した。その間も滝夜叉丸は少年に突っかかる。

「その身なりからして、お前も陰陽師なのではないか?北の村に行ったか?」
「陰陽師じゃないです」
「嘘をつくな!お前が火を放ったのではないのか!?」
「変な言いがかりつけないでくださいよ」
「ではなぜここにいる!」

放火犯は現場に戻ると言うではないか!と騒ぐ滝夜叉丸に野次馬が気づき始めた。

「小平太、中の様子は俺と伊作と八左ヱ門で見るから、こいつらつれて屋敷に戻っていろ」
「わかった」

とりあえず肩に滝夜叉丸と少年を担いで、小平太は屋敷に向かって全力で駆けた。


つづく


2012.6/2

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