不思議な世界

キャラ崩壊してるかも

授業中、ふと空を見上げると、渡り鳥が『く』の字になって飛んでいた。雲が動いている。ゆったりとした風に、押されて流れる雲の合間は青い空。ハッとするほどキレイな青だ。先生の声が遠い。閉じられた窓の向こう側から、色んな音が聞こえてくるような気がした。風の吹く音、鳥の鳴く声、虫の羽ばたき・・・・あぁ、なんだか目蓋が重いなぁ。

〈暗転〉

気がつくと、俺はパンを食べていた。固い木の椅子に座っている。同じく木製のテーブルには暖かいスープと冷たいミルクが置かれている。目の前では、勘右衛門が同じようにパンを食べていた。目が会うと、勘右衛門が口を開いた。

「あぁそうだ“赤ずきん”、今日は“おばあちゃん”のお見舞い行く日だったね」
「・・・・勘ちゃん?」
「やだなぁカアちゃんなんてどうしたの?いつもは“ママ”って呼ぶじゃないか」

クスクスと笑う勘右衛門。“ママ”?勘右衛門に対して“ママ”なんて呼んだことは無いはずだが・・・・。それに、どうして俺のことを“赤ずきん”と言うのだ。ふと自分の衣服を確認すると、確かに赤い頭巾をかぶっているらしい。同じ色のスカートに白いエプロンも着用していたが、自分で着た記憶はない。

「“ママ”ね、どうしても外せない用事があって行けなくなっちゃったの。だから“赤ずきん”このバスケットを持って、一人で“おばあちゃん”ちまで行っておくれ」

バスケットの中身は、焼きたてのアップルパイとパン、ビンに入れられたマーマレード、そして葡萄酒が一本だった。“狼さん”には気を付けるんだよと、勘右衛門に送り出されてハッと気づく。これは、このシチュエーションは・・・・まさに童話【赤ずきん】じゃないか!

○不思議な世界

なんだか状況がよくわからないまま、勘右衛門ことママに言われた道を真っ直ぐ進むとおばあちゃんちのある森にたどり着いた。この森の奥、湖の畔におばあちゃんはいるらしい。とにかく先へ進むしかない。どうやらこの夢の中では俺が赤ずきんみたいだからな。

「やぁ赤ずきん」

森を歩いていたら、後ろから肩を叩かれた。振り返った先にいたのは・・・・

「さ、ぶろう?」
「え?私は狼さんだよ」
「狼さん・・・・」

焦げ茶色の犬もとい狼の着ぐるみを着た友人、鉢屋三郎にしか見えない彼が、どうやらママの言っていた狼さんのようだ。

「赤ずきん、どこへ行くんだい?」
「勘ちゃ、じゃなかった。ママに頼まれておばあちゃんのお見舞いに行くの」
「おばあちゃんちはどこだい?」
「この森の奥、湖のところ」
「ふ〜ん」

どう見ても三郎が奇妙な格好をしているだけの狼さんは、顎に指を当てて思案した後、いいことを教えてあげると宣った。

「すぐそこに綺麗な花がたくさん咲いている原っぱがあるのだが、どうだい?おばあちゃんに摘んでいってあげないかい?」
「・・・・」

これは明らかに罠だ。俺はあまり本を読まないので一般的な絵本の赤ずきんしか知らないが、狼さんはこの後先回りをしておばあちゃんを食べちゃうはずだ。ここはきっぱりと断っておばあちゃんを守るべきか、世界観を守るために流れに身を任せるべきか。ここは当然、人命を優先すべきであろう。が、思いの外、狼さんは強引だった。

「ほら、こっちだよ赤ずきん」
「や、花はいらない」
「まぁまぁそんなこと言いなさんな」

嫌だと言うにも関わらず、ぐいぐいと腕を引かれる。連れていかれた先は一面みごとに真っ白だった。

「うわぁ」
「な、綺麗だろう」

花の絨毯とはまさにこのこと。摘まないと決めたのについつい手がのびた。ぷちんと一つ摘み取る。白い五枚の花びらが緩やかな風に揺れ、甘い香りが鼻孔を擽った。あぁ、これは。

「おばあちゃんに摘んでいっておあげよ」
「うん」

俺は無意識のうちに三郎のその声に頷いて、無心に花を摘んでいた。やがて、バスケットが花でいっぱいになった。もういいや、と思って顔をあげると、三郎はすでにいなかった。

「しまった!」

おばあちゃんちに行ったのか!慌てて駆け出す。花畑から10分走った先に湖はあった。畔に木で作られた小屋もある。トントン、と叩くと中から返事があった。

「赤ずきんです。入ります」
「おぉ、よく来たね赤ずきん」

小屋の奥のベットに誰かが横になっている。近くに寄ると、雷蔵のようだった。

「さぶ、じゃなくて。狼さん、じゃ、ないよね?」
「おばあちゃんだよ〜」

雰囲気は雷蔵だが・・・・。

「・・・・耳でかくね?」
「お前の声をよく聞くためさ」
「目、はいつもどおりか」
「お前をよく見るためだよ」
「えっと・・・・手が毛むくじゃらで大きいね」
「お前をよくつかむためさ」

あぁ、この流れは俺食われる。話通りに行けば食われても漁師さんが助けてくれるはず。しかし、ママが勘右衛門、狼さんが三郎、おそらく目の前にいるおばあちゃんは三郎だが、三郎のお腹の中にいるであろうおばあちゃんは雷蔵なのだろう。すると、漁師さんはこのまま順当にいけば兵助、ということになる。期待していいものか。仕方ない、このままでは話が進まない。俺は意をけっして口を開いた。

「おばあちゃん、お口も大きいね」
「ふふふふふ、それはね、お前を・・・・食べるためさぁ!」

ガバァッと飛びかかってきた雷蔵に化けた三郎。ギュッと目をつぶった時、銃声が響いた。

「ぐぁぁああ!」
「え?」

苦しそうな三郎の声。目を開くと、肩を押さえてうずくまる三郎がいた。

「無事か赤ずきん!」
「兵助!?」
「兵ではない。俺は漁師だ」

口から煙の立ち上る銃を持った兵助が、俺の前に立って、再び銃口を三郎に向けた。

「ちょっ!待って兵、じゃなくて漁師さん!狼さんを打たないで!」
「何故だ。こいつは君を食おうとしたのだぞ。しかもおばあさんもこいつに食われたようではないか」
「いや、たとえ夢の世界でも三郎は雷蔵にひどいことできないよ!きっとおばあちゃんは食べられてない!そうでしょ狼さん?」

白いエプロンをはずして、打たれた三郎の肩を止血する。だって雷蔵を食べたにしては腹もぺったんこだし。

「・・・・おばあさんは、クローゼットの中だ」

それを聞いた兵助は、クローゼットの扉を開いた。確かにそこに雷蔵はいた。温かい毛布にくるまって眠っている。

「狼さん、悪戯がしたかっただけだろう?」
「・・・・」
「何てたちの悪い悪戯だ」
「まぁまぁ漁師さん」

兵助がクローゼットから雷蔵を出して、ベットに寝かせた。健やかな寝顔。大事はなさそうだ。よかった。そう思ったところで、急に眠気が襲ってきた。

「あ、れ?」
「どうした赤ずきん?赤ずきん!?」

兵助の声がだんだん遠のいて・・・・意識は途切れた。

〈暗転〉

キーンコーンカーンコーン、耳にチャイムの音が響いてはっとした。キーンコーンカーンコーン、目に大量の光が入ってきてまぶしい。キーンコーンカーンコーン、パチパチと目蓋を動かす。キーンコーンカーンコーン。目がなれた頃にあたりを見回すと、ちょうど授業がおわったところのようだった。「起立」、号令係の号令で立つ、礼がおわり着席までの一連の動作をこなすと、田蕗先生は教室を出ていった。

「あれ?」

あぁそうか、夢を見ていたのか。俺が赤ずきんだなんて変な夢だった。目の前に影が落ちる。見上げるとそこには三郎と雷蔵がいた。

「よく寝ていたな。雷蔵が先生に見つかる前に起こそうと、隣で何度も揺すっていたんだぞ」
「え?」
「ハチ、すごく疲れてるみたい。無理しないでちゃんと休んでね」

二人とも眉間にしわが寄っている。

「あ、ありがとう。ごめん」

俺の心配をしてくれたのだろう。余計な心配をさせてしまうほどぐっすり寝ていたらしい。

「ほらいくぞ」
「どこに?」
「今日は天気がいいから中庭で飯食う約束だろうが」
「兵助と勘ちゃんが先に行って待ってるよ」

そうか、昼休みになったんだ。

「どうせコンビニの焼きそばパンだろうけど、早く持ってこい。おいてくぞ」
「え!?あ、三郎待って!ハチ早く早く」
「あ、うん!」

鞄からサイフとコンビニの袋を引っ付かんで、慌てて二人の背中を追いかけた。


おわる

ピンドラと無双でやったおとぎシリーズらくらん版ようやく完成!
書き上げる直前にナウ/シカ見てたので、後半はちょっとだけ影響を受けています。
竹の谷の八左ヱ門(笑)
竹谷ってジ/ブリが似合いそうwwwww


2012.5/12

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