十物語をしませう

怖がり竹谷

○十物語をしませう

暑いなう。暑い夏、ミンミンジージーツクツクボーシと、八左ヱ門ぐらいしか喜ばないような虫の鳴き声が、自室のベッドに腰掛けて教科書を熟読していた俺の鼓膜にやかましく響く。おかげで集中が途切れてしまった。たった一週間の一生を謳歌せんがために鳴いているのだから、多少多目に見てやれよと誰かは言った。しかし八左ヱ門に言わせれば、観察されているセミは一週間で死ぬが、それ以外の自由なセミは悠々と一ヶ月は普通に生きているらしい。しかしだったらその情報はどこから・・・・?

ピリリリリ

そばに置いていた携帯がけたたましく鳴った。ディスプレイには鉢屋三郎の文字。

「はい」
『おー兵助、木下先生や大木先生のように暑苦しい太陽の熱気でゆだってるか?それとも安藤先生のだじゃれのごとく冷えるクーラーの寒さに震えているか?』
「・・・・前者だ」
『だろうな。節電の夏だしな』
「で、用件は?」
『百物語ならぬ、十物語でもやらないかと思って』
「十物語?あぁ、いつもの五人で、一人二個ずつ怪談話を・・・・ってことか?」
『物分かりがよくて助かる』

夏に怪談話とは定番だな。自分から言い出すくらいだし、日頃から話し上手な三郎は怖くない出来事を元にしても、我々を怖がらせようと工夫をこらすのだろう。勘右衛門は逆に、怖い話をコメディチックにするのが得意だ。雷蔵は持ちネタが抱負だから、怖さよりもその内容が楽しみである。八左ヱ門は・・・・

「はっちゃんは了承したのか?」
『反対されたが説き伏せた』
「そうか」

八左ヱ門は怖い話が苦手だ。あと閉所と高所も苦手というか恐怖症である。ネアカでどちらかと言えば脳筋族系のスポーツマンタイプであるくせに、見た目に似合わず恐がりとは、なんとも可愛らしいウィークポイントだ。悪く言えば情けない男とも言える。

『ハチの怖がりっぷりが楽しみだな。じゃあ今夜、ハチんちで』
「了解」
『詳しいことはまたメールする』
「あぁ。じゃあまた後でな」

さて、では俺もいい話を探さなくては。怪談と言えば、四谷怪談が真っ先に思い浮かぶが、とある新聞に載っていた名人が語る怪談ランキングでは、それに続いて牡丹灯籠、真景累ヶ淵、生き人形、雨月物語など名前を聞いただけで体が震えるようなタイトルが並んでいた。個人的に豆腐小僧という妖怪に関する話が好きだ。

20時、丑三つ時(0時から2時)に十物語を始めるらしいので、早めに八左ヱ門の家へ。お泊まり会がてらに怪談なんて冗談じゃないと、八左ヱ門が顔をしかめる。

「しかしはっちゃん、十物語をした後にみんなが帰ったら一人きりになってしまうぞ」
「・・・・」
「そうそう、ほら貴方の後ろに・・・・」
「勘ちゃんやめてくれ!」

やれやれ、始まる前から怖がっていては、三郎の格好の餌食だ。おやつに買ってきた大量の豆腐の一つを開ける。しばらくして八左ヱ門の家に三郎と雷蔵がやってきた。おおかた雷蔵が話を選ぶのに時間をかけたのだろう。学校近くのボロアパートで一人暮らしをしている八左ヱ門んちは、怪談話をするのにうってつけだ。布団を真ん中を囲むように敷き寝転ぶ。三郎持参の白い蝋燭に火を灯し、いよいよ怪談が始まった。

朝、目を覚ますと何かが腕にしがみついている。目をやると八左ヱ門だった。そういえば二周目に入る直前から、もう限界だと俺にしがみついていたような・・・・そのまま寝たんだったか?枕元の携帯で時間を確かめると9時だった。オールナイトだったからまだ眠い。

「兵助起きた?」
「雷蔵、起きてたのか」
「少し前にね。ハチには悪いことしちゃったよね」
「いいんじゃないか?はっちゃんがいくら怖がって何かあっても、どうせ俺たちが必ず守るんだから」
「「兵助カッコいい」」
「三郎、勘右衛門、お前たちも起きてたんだな」
「たぶんハチも起きてる」

え?としがみつかれたままの腕を見る。はっちゃん、そう呼び掛けて赤く染まる頬に触れると、八左ヱ門はピクリとした。

「起きてたんだ・・・・」
「よかったなハチ。俺たちがお前を必ず守るって兵助が言い切ったぞ」
「男だけどお姫様だね」
「ハチ可愛い」

ガバッと俺の腕を離して飛び起きた八左ヱ門は、うなり声をあげながらトイレに逃げた。

「べ、別に嬉しくなんかないんだからな!」

という捨て台詞を残して。

おわり

ダメだこりゃ・・・・(笑)

2012.8/7

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