従弟を拾いました

連載にしようとしたけど失敗したブツ@
現パロかつ竹谷と綾部が親戚のため注意

○従弟を拾いました

小降りより多くて大降りより少ない。パラパラと傘に当たって落ちる軽快な雨音が好きだ。大学であった嫌なことも、一緒に流れていく様な気がして気分が良い。今日の夕飯は何にしようか。我が家の食糧状況を思い返す。ご飯はわざわざ炊かなくても、前に炊いて冷凍したものがいくつかある。冷凍ミックスベジタブル半袋、卵二つ、牛乳、マヨネーズ、ケチャップ、あぁプリンも一つ残っている。それから実家から送られてきた素麺。めんつゆと醤油は切らしていたな。まぁいいか、今度買えば。とりあえず今夜は肉無しチャーハンに決定だ。苦学生涙目。バイト代が入るのは三日後で、いまサイフには1000円ちょいしか入っていない。あと三日食い繋ぐためだ、仕方がない。そんなことを考えながら、一人暮らしをしているアパートに帰る。入り口に備え付けられた郵便受けをチェックして、入っていた怪しい団体の勧誘チラシに目を通しながら階段を上った。ふと顔を上げると、部屋の前に誰か倒れている。細身のジーンズに紫色のパーカー。頭にフードを被っている。

「っ!お、おい、大丈夫か!?」

慌てて抱き起こすと、それはよく見慣れた人物だった。

「喜八郎・・・・!」
「・・・・おなか、すいた」


喜八郎は従弟だ。仲良し姉妹な母親たちに連れられて、昔はよく一緒に遊んでいたが、俺が中学に入ってからは、部活が忙しくてほとんど会わなくなった。最後に会ったのは三年前、祖父の葬式でだったと思う。一つ年下だから、高校は今年の三月に卒業しているはずである。びしょ濡れの服を脱がしてタオルで拭いて、適当な服を着せる。

「ちょっと待ってろよ。いま風呂焚いてるから。あと飯はチャーハンでいいか?」
「うん」

感情の起伏があまり無いのはいつも通りだが、それにしたって元気がない。一個だけ残っていたプリンを出す。

「これ食っとけ」

のたのたと蓋をめくってスプーンを手にとるのを確認して、チャーハン作りに取りかかった。喜八郎は、大学に進学していないのだろうか。性格に多少の難はあれど、頭は俺より優秀だったはずだ。ていうかそもそも、どうしてうちの前に行き倒れていたんだろう。ミックスベジタブルを炒めて、そこに解凍したご飯と溶き卵を加える。ご飯と卵は同じタイミングで入れると美味しくなる、とはテレビ受け売りだ。良い感じに炒まったところでケチャップで味付けをする。うん、我ながらうまそうだ。

「ほら、食えよ」
「・・・・いただきます」
「うまいか?」
「うん」
「そうか、よかった」

自分の分を半分食べたところで、話を聞く。

「で?何で行き倒れてんだ?」
「・・・・」
「学校は、行ってないのか?」
「・・・・」
「家出か?」
「・・・・違う」

はち兄ぃ、と舌足らずな幼い頃からくせになっている呼称で呼ばれた。怒らないで聞いてくれる?そう伺う喜八郎の頭を撫でて、おうっと答える。

「大学は、兄ぃとおんなじとこ」
「マジで!?」
「入寮したけど、みんなと仲良くできなくて逃げてきた」
「・・・・そ、うか」
「学校辞めようかとか考えたんだけど、大切な友達が三人もできて・・・・」
「辞めたくないんだな?」
「うん」

友達はみんな実家から通っているのだそうだ。厄介になるわけにはいかない。だから、しばらく街をふらふらした後、俺のアパートを母さんに電話で聞いて来た。寮にはいたくないけど学校には通いたい。つまりこれは、そういうことなんだろうな。言いにくそうにしている喜八郎を一瞥して、仕方がないとため息を一つ。

「じゃあ、一緒にここで暮らそうか」
「!」
「いま金欠であと三日は素麺で食い繋ぐことになるけど。あぁそれから、家事は手伝えよ」
「手伝う!」

相変わらずにこりとも笑わない顔だが、少し嬉しそうだ。珍しく力強い返事をした可愛い従弟に、にっと笑いかけて、じゃあ明日にでも退寮に必要な書類をもらってこいと頭を撫でた。


おばさんに電話をさせると、何やら騒いでいる声がこちらまで響いてくる。それでも何とか納得してくれたらしい。一応一言と思ってかわってもらう。突然ごめんと言うと、おばさんは心底申し訳なさそうな声で見知らぬ人の世話になるより全然良い、どうかよろしくねと伝えてきた。喜八郎は人付き合いが苦手だから、おばさんも色々心配していたらしい。

「明日授業は?」
「二限と三限と四限」
「じゃあ弁当いるな」
「兄ぃは?」
「授業?明日は二限と四限だけだ。五限は休講で一限と三限は入れてない」
「なら一緒に帰ろ」
「そうだな。醤油とめんつゆ買いにいくから着いてこいよ」
「うん」

サイフには野口英男が一人と小銭が少し。食べ盛りが二人に増えて、あと三日大丈夫だろうか。

「あ、弁当は塩握りだけだからな」

つづく

もはや誰。
季節は梅雨、八左ヱ門は寮より安いアパートを借りた方がいいと入学当初からアパート暮らし。
実は八左ヱ門と喜八郎にはもう一人、七松小平太という従兄がいる予定でした。

2012.4/22


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