It grows up together.
小学生、にょたけ
○It grows up together.
「女々しい男と雄々しい女の典型だよな」
「え?」
「兵助とハチだよ」
三郎の視線の先には、隣のクラスのいじめっこ男子をぼこぼこにしているハチと、それを見て泣きべそをかいている兵助がいる。兵助は、さっきまで彼らに、女みたいだとからかわれていたのだ。いまは放課後で、いつも兵助のそばにいる勘ちゃんは風邪で休んでいる。だから一緒にお見舞いに行く約束をしていて、兵助を迎えに行ったらこうなった。
「もう何で男子って可愛い子いじめるんだよ!」
と、いうハチの言葉に兵助の泣き声が大きくなった。男としては、女の子に可愛いと言われても嬉しくない。兵助程じゃないにしろ、ハチに可愛いと言われることのある僕には少しその気持ちがわかる。
「兵助も泣くなよな!そんなんだから泣き虫だのオカマだの言われるんだ!」
「な、泣き虫ははっぢゃんもだよぉ!オカマじゃない!」
「俺は泣き虫じゃないもん!」
ハチにぼこぼこにされたいじめっこたちは、いつの間にかいなくなっていた。三郎が二人の会話に入る。
「泣き虫だろう。それから怖がり」
「何だと!?」
「学校の七不思議、独りでに鳴る音楽室のピアノ」
「っ!」
「校内をさ迷う落武者の幽霊」
「う・・・・」
「踊り出す保健室のコーチャン」
「やめろ!べ、べべべつに怖くない!」
「嘘つけ」
ニヤニヤとハチをからかう三郎。やってることはさっきのいじめっこと一緒だけど、多勢に無勢じゃない分、ただの戯れとして見れる。
「でもはっちゃんは虫は怖がらないよ」
「何だよ兵助、ハチの味方になるのか?」
「三郎よりははっちゃんがいい」
「この野郎」
みんなをこのまま見ているのも楽しいんだけど、本来の目的は勘ちゃんのお見舞いである。時計を確認すると、短針が3、長針が4を指していた。そろそろ行かないと夕方になってしまうので、止めなければならない。
「ねぇみんな。勘ちゃんのお見舞い、早く行こうよ」
本当はいけないんだけど、ランドセルをしょったままコンビニに寄った。ハチと兵助にランドセルを預けて、代表で三郎と僕がコンビニに入る。一人50円ずつだして、200円でうまひ棒を20本お見舞い品として持っていくのだ。
「サラダ、コンポタ、サラミ、たこやき、テリヤキ、チーズ、メンタイ、チョコレート。結構あるなここ」
「う〜んどれを何本買おうか?」
「まずチョコレートは却下」
「え?ダメなの?」
「俺とハチと勘右衛門は、あれをうまひ棒として認めてないからな」
「へ〜」
「それからサラダ、チーズは何か普通だからダメ」
「普通でいいじゃん」
「4種類を5本ずつ買わないと、みんなおんなじ味を食べられないだろう?だから変わり者を4つに厳選するんだ」
「なるほど」
雷蔵が迷わなくていいように、だってさ。三郎は優しいな。結局、サラミ、メンタイ、テリヤキ、コンポタの4種類にした。外で待機していた二人に合流すると、大きなセミの脱け殻を見つけたハチが、これもおみやげにすると宣った。兵助は脱け殻を怖がってまた涙目になり、三郎は顔をしかめていたけど、僕は動かないからセミの脱け殻ならいいと思う。ふと僕は、『虫愛ずる姫君』というお話を思い出した。無理に自身の見た目を着飾らず、毛虫が蝶になる過程を観察して物事の本質をみようとするのだ。正直、成績は仲間内の誰よりも悪くて、女の子のわりに髪の毛もボサボサなハチだけど、ひょっとしたら将来はすごいことをやってのけるかもしれない。
勘ちゃんちについた。ちょうど夕飯の買い出しに出る勘ちゃんのお母さんと門のところであって、中に入れてもらった。階段を上って右端が勘ちゃんの部屋である。
「勘ちゃん」
「お見舞いきたよー」
ノックもせずにどんどん部屋に入る。ベットで上半身を起こした勘ちゃんがいた。
「みんないらっしゃーい」
「うまひ棒買ってきたけど食える?」
「うん。もうだいぶいいんだ。熱も下がったし」
「よかった」
わらわらとベットの回りに集まる。
「勘ちゃん、はいセミの脱け殻」
「わっ!すごい!」
「だろ?超キレイに残ってたの」
「セミの脱け殻ではしゃぐなんてお前らガキだな」
「「ガキだもーん」」
「三郎もガキだろう?」
「そういう兵助もな」
「はい!僕も僕も!」
「雷蔵は俺と一緒に大人になろうな!」
「こら三郎、そこは五人そろってって言えよ!」
「そうそう。二人の世界にはいらないでよね」
「いや僕は入ってないよ。三郎が勝手に・・・・」
「雷蔵ひどい!」
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
つづく
2012.6/30
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