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ヴァイルピークスを抜ければ、そこの景色は一変した。
一面に彩られたモスグリーン。所々に咲き乱れる花々。時折聞こえてくる鳥の囀る音色は、沈んだ心を浮き立たせてくれる。

サッズとヴァニラ、そしてウィッシュはサンレス水郷の入り口に入ったのだ。

ふらりふらり、しかしるんるんと足取り軽く歩いていくヴァニラは空気を肺一杯に吸い込んでこれだね、これっ!と満足げに、そして懐かしげに微笑んだ。


「で、どこ行こうってんだ?」

「さぁ?」

「さぁって……、そっちがずんずん行っちまうからついてきたのによ。」


呆れ果てるサッズにヴァニラは悪びれも無くいい匂いがしたから、とだけ返した。花に顔を近づけたヴァニラは再びその花の匂いを吸い込む。


「緑の匂い、懐かしくない?」

「青臭えだけだな。やたらジメつきやがるし   


鼻をスンスンして辺りの匂いを嗅いだサッズは眉をひそめてしまう。そんなサッズから視線を外し、ウィッシュに目を向ける。


「ウィッシュは?」

「うん、なんか、すごく懐かしいんだけど…。」

「だけど?」

「……緑が違うというか、なんか、懐かしいけど、ここじゃない。そんな感じ。」


自分でも言っている意味がわからないのか、困惑した様子で考え込んだウィッシュ。ヴァニラは同じく思案していたが、不意に聞こえてきた音に空を見上げた。


「隠れて!」


身を隠すのに大き目の葉を見つけた三人は、音が上空を通り過ぎるのを待つ。


「軍の船だ。あの方角だと、パルムポルムか。」

「ライトニング、軍の網に引っかかったのかもな。」


ウィッシュの言葉に、ヴァニラはどうする?と聞いてくるが、サッズは困り果てたように視線をさまよわせる。今更、どうしようもできないのだ。ここまで来てしまったし、エデンに行くといってる二人だし…。そう考えているサッズをみて、ヴァニラは軍と逆の方へ逃げようと提案する。

リアルが怖いなら、逃げてもいい。そう言ってホープを諭してくれたのは、他でもないヴァニラだ。立ち向かうのに勇気がいるのなら、逃げることにだって勇気がいる。逃げの一手は、決して臆病なわけだけではないのだ。


「軍と逆の方向ってことは   

「ノーチラスか……。」


呆然と、余裕のない顔でサッズは一人歩いていってしまった。

そんなヴァニラとサッズの背中を見ながら、ウィッシュは一歩も動かない。そのことにいち早く気づいたヴァニラは不思議そうにウィッシュ?と振り向いた。


「ヴァニラ、サッズを頼むな。」

「え?」

「サッズ、余裕なくしてるから、ヴァニラを傷つけるようなこと言うかもしれないけど、ヴァニラは笑っていてくれ。」

「……うん、任せて。」


ヴァニラはウィッシュの言葉に感づいて、そっと優しく微笑んだ。

しかし彼女は気づかなかった。ウィッシュはライトニング達を追っていくのだとばかり考えていたから。


「気を付けてね。」

「ああ。ヴァニラ達も、生き延びろよ。」


そう言って駆け出した背中を、ヴァニラは少しだけ長く見ていた。








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