**.恋せよ 花舞え.**
機械弄りが趣味なウィッシュにとって、ここヴァイルピークスは宝の山と言っても過言ではない。未知な兵器ではあるが、使用しているものはかけ離れたものではないのだ。似通った文明が、下界にはあるということを物語っているのだ。
下界にはどんな文明があるのか、誰も興味を示さないであろう分野に首を突っ込んでしまうのは人の性であろうか。
兵器を倒した後に嬉々として部品を回収したウィッシュは、ライトニングにブレイズエッジを借りてスピードと攻撃力を重視するように改造していく。それを見ていたサッズがデネブを投げ渡してきた。
サッズの武器は二丁の拳銃だ。それは如何様にも改造のし甲斐がある。逆を言えば、この拳銃を生かすも殺すもウィッシュ次第。
「俺らに未来はあるんだかな。」
「ろくな未来は見えないな。」
「行くあてもねぇしなあ。」
「あるさ。 あそこだ。」
デネブの最後の螺子を締めたところで、サッズとライトニングの方へと視線を投げたウィッシュ。あそこだ、と言って立ち上がったライトニングが睥睨している先ははるか空。
「エデンだと?聖府の中枢じゃねえか。…勇ましいねぇ、殴りこみでもかけようってか。」
「……。」
エデン。先日のガレンス・ダイスリーによるありがたいファルシの代弁と聖府代表者の言葉が鮮明に思い出されてウィッシュは眉をひそめる。
サッズの冗談に無言のライトニングを見やれば、その顔は真剣そのものだ。
ああ、あの顔は敵に集中している時のライトニングの顔だ。サッズの正気か?という問いかけに答えなかったが、ライトニングの瞳は強い火が灯っている。
「逃げ続けても、狩られるかシ骸だ。ルシの逃げ場はどこにもない。なら、コクーンの敵らしく聖府に喰いついてやるよ。」
「冗談じゃねぇぞ!」
「ああ、冗談じゃないね。」
冗談でこんな馬鹿げたこと、誰が言うかとサッズは睨みつけられる。
「下界のファルシがセラをルシにした。守れなかった私もルシで コクーンの敵として、聖府に追われてる。だが聖府の裏に何がいる?
ファルシだ。
コクーンを支え 人間を導くとかいうファルシ=エデンだ。パージを命じたのもそいつだろうさ。
「下界のファルシ」だろうが「聖府のファルシ」だろうが ファルシどもにとって、人間は道具だ。私は道具で終わる気はない。」
「じゃあ、どうすんだ。」
人間を使って使命を果たさせようとするファルシ。確かに、人を道具と思っていなければこんな無差別にルシにしたりはしないだろう。
エデンから視線を外したライトニングはどこか遠いところを見つめながら呟くように言った。
「ブッ潰す。」
「ひとりでか?無茶言うな。万一うまくいっても、ファルシ=エデンは社会基盤(インフラ)の中核だ。あれに何かあったらコクーンはガタガタに 」
そこではたと気づいたのはサッズだけではない。ウィッシュもまさか、と零した。
「壊したいのか?下界のルシだからってコクーンを壊そうっつうのか。」
「駄目!」
必死な形相で首を横に振るヴァニラは強い口調でライトニングに迫っていく。
「セラを忘れたの?コクーンを守れって言ったじゃない!守るのが使命かもしれないのに 」
「使命は関係ない。私はファルシの道具じゃない。生き方は、自分で決める。」
「……「死に方」、じゃねえのか?」
ぞっとした。思いを寄せている目の前の女性がいなくなってしまうかもしれない。愛の言葉を交わさぬままこのまま終わりにしたくはない。
「迷っていても絶望だけだ。進むと決めれば、迷わずに済む。 安心しろ。敵は聖府だ。世界を滅ぼす気はないさ。滅ぼしそうになったら、あのバカが止めに来るかな。」
「スノウと戦うってのか!?次に会ったら敵同士かよ。」
「おまえたちとも、そうなるかもな。」
サッズ、ヴァニラ、ホープへと投げた視線の最後はウィッシュに行き着いた。何かを振り切るようにして視線を外したライトニングはそのまま歩き出す。
「どうしたらいいか、わからなくて……。」
「俺もだ。」
スノウは敵だと言ったホープはライトニングを追っていく。その後姿を見たヴァニラは辛そうに、困ったようすだ。しかしそえはサッズも同じこと。
「私がついてるよ。」
「心強いねえ。」
背中を叩かれたサッズは苦笑を零す。そんな二人にウィッシュは手にしていたデネブに視線を落とした。
ホープとライトニングも心配だが、ウィッシュにとってこの二人も心配事の内の一つ。経験をつんでいない市民がヴァイルピークスを抜けることはまず無理だろう。そう考えたウィッシュは二人が今後どうするのかを思案した。
ライトニング達と別れたから然程時間は経っていないが、軍隊は待ってはくれない。
激しい爆発音が聞こえて、ライトニング達が通ったであろう道が崩されてしまっていた。
「軍隊のお出ましだ。」
「どうする?」
「どうするって……そりゃあ……。」
サッズとしては、先に行ってしまったライトニング達が気になってはいるのだろうが、何せ彼女達はエデンを壊す目的で動いている。迂闊に一緒に行ってもいいのだろうかという理性の狭間で揺れるサッズにヴァニラは敏感に察知したようだった。
「逃げよう。」
「へ、」
「逃げたほうがいい。助けに行っても、逆に足手まといになる。」
「……そうか。そうだな、姉ちゃんなら簡単にやられねえか。」
導かれるように頷いたサッズは徐にウィッシュへと視線を投げる。
「……あんちゃんは、ホープや姉ちゃんの方に行かなくていいのか?」
「俺は、まだ正式に軍を抜けたわけじゃないからな。」
紡いだ言葉の意味を注意深く思案するヴァニラとサッズ。そう身構えなくてもいいよとウィッシュは微笑する。
「軍人は市民を守るのが仕事だから。」
「ありがてえ!」
ウィッシュの言ってる意味が通じたのかサッズを先頭にヴァニラとウィッシュはライトニング達とは別の方向へと歩いていった。