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「ウィッシュ!!」

「ウィッシュ兄さん!」



前方から聞こえてきた悲鳴にも似た叫び声が響いてライトニングの歩むスピードは上がった。


   ウィッシュが、見つかったのか。


こんな遠くの方まで飛ばされたのか、無事でいるのか、お前の使命も私たちと同じなのか、ライトニングは聞きたいことが山ほどあった。

だがその前に無性に殴りたくなる。

なぜこんな理不尽な思いが溢れるのかライトニングは理解できなかった。







視界に入ったのはこの状況にふさわしくないほど美しい光景。



所々に刺さった棒状のクリスタルに絡め取られていて、しかしうまい具合にウィッシュの身体をそれらは支えている。

光に反射してきらきらと輝くその姿はまるで踊りを終えてその余韻に浸っているかのような神々しさがあった。

一瞬、ウィッシュがクリスタルになってしまったのかと思ったが、どうやらそうではないようだ。

落ちてきたライトニング達とは違い、ウィッシュの姿はまるで自然と発生した植物のように、今までここにいたかのように(そしてそれが自然であったかのように)そこにいた。


「ウィッシュ!今助けるからな!」


この場にいる全員が一瞬の時を忘れ、ウィッシュに釘付けになったがいち早く脱したのはスノウだった。

駆け寄り棒状のクリスタルを折っていくが格子状になった部分はいくらルシの力を帯びていても素手では折れない。


「どけ、私がやる。」


スノウに代わり、ライトニングはブレイズエッジを構えて強めにクリスタルを砕いていく。

支えをなくした身体はふらりと後ろに倒れるのをライトニングが受け止めれば、当たり前だがずしりと重い男の身体。

感じた温もりに思わず息を吐く。

暖かく、心臓も動いている。

   大丈夫、死んでない。

完全に意識がないウィッシュを横たえるとヴァニラがすかさずケアルをかけていく。

ホープも一緒に膝をつき、主に右の肩を重点的にケアルを唱えていった。


「ぅ……、」

「ウィッシュ?」

「ウィッシュ兄さん?」


軽く眉を動かした程度でウィッシュは目を開けることはなかった。

落胆の色を少しだけ見せたライトニングとホープとヴァニラ。しゃがんで見ていたサッズがそういえば、とホープを見つめる。


「ホープ、お前あんちゃんと兄弟か何かか?」

「いえ、…僕とウィッシュ兄さんは、家が隣同士なんです。身寄りがいないウィッシュ兄さんとは、いつからか仲がよくなって、まるで本当の兄弟のようねって母さんも言って……。」


それ以降口を閉ざしたホープにヴァニラは心配そうにその肩を撫ぜた。

ウィッシュに身寄りがいない、そんな話は始めて聞いた。

そんな雰囲気は微塵も感じさせないほど明るい奴だとライトニングは思っていたから。

そういえばと、ライトニングの巡らせた思考にいるウィッシュというのは明るい笑顔やはにかんだ笑顔や照れくさいような笑顔などといった常に陽気な姿だけだ。


「記憶がな、曖昧なんだ。」

「ウィッシュ!」

「ウィッシュ兄さん!」


ホープへと向けていた視線を支えている男へと戻せばヘラリと気のない笑顔を見せてきた。


「小さい頃のことは勿論、5年前までくらいの記憶も。」


軍に入る、数年前から記憶がないというウィッシュ。

だが、そうだからといってライトニングの中のウィッシュがどうこうするわけではない。

ライトニングと出会ったウィッシュという男は揺らぎないものなのだから。

ケアルをかけてもらって大分怪我はよくなっているようだが、サッズの胸元を見てウィッシュは顔色を変えた。


「おっさん、それ……」

「ああ、皆なかよくルシにされたんだ。」


皆、と言われて初めてウィッシュが周りを見渡す。サッズ、ヴァニラ、スノウ、ホープ、そしてライトノニグへと視線をめぐらせた。


「ウィッシュ、お前もだ。」


つつ、と首筋に触れればひくりと目の前の肩が揺れた。

吃驚して視線を寄越すウィッシュに、厳しい視線を送ってしまう。

セラだけでなく、ウィッシュ、そして自分までもが下界のファルシに奴隷として未だなお命を続けている悔しさを改めて確認させられたからだ。












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