今日の予定は空欄
ちらちらと降る雪を冷たい窓に張り付いてみる。また雪が降ってしまった。時間はころころ変われど、気候はいつも穏やかだったこの不思議な世界に季節がやってきた。最初は喜んでいたがこうも雪が続くと嫌になってくるがそれにも慣れてしまった。冬なんだから雪は降る。それは仕方ない事だ。いつまでも窓にへばりついている私に修理に手を止めてユリウスが声をかけた。

「おい、窓際は冷えるだろう。そんなにへばりついて、なにか面白いものでも見つけたのか。」

『いいや、いつも通り真っ白な世界ですよ。雪まで降ってきた。』

「どおりで寒いわけだ。そんな見慣れた風景をいつまでも見ていたって仕方ないだろう。冷えるからこっちに来い。」

『だって、』

「だって、なんだ。」

『…いや、なんでもない。仕事は終わったの?』

「いや、まだだ。私に仕事に終わりなんてないこと位知っているだろう。」

『それでもない時はないし、沢山あってもユリウスは今日の分と明日の分とちゃんと分けるでしょう。』

「溜めるのは性に合わない。」

確かに積まれた箱の中には修理待ちの時計がまだある。明日に回してもいいかもしれないが彼の性格上そんなことはしない。明日にはまた時計が増えることだって大いにありうる。こんなに働いているのにお金持ちではないし、人にも好かれない。何て損な役割だろうか、と最初は思った。だけどこれでいい。彼を私が独り占めできるのだから。

「雪なんて見飽きただろう。早くこっちに来い。…さっき残念な顔をしていたが雪が嫌いか?まぁ、好きな奴なんて子供位だろうが。」

『見飽きたけど、嫌いじゃないし冬は好きだよ。しんと静まるからユリウスと2人きりって感じがするし。2人きりの世界、ってやつ?』

「なにを馬鹿なことを。私と2人きりだったら退屈で死ぬんじゃないか。」

『そんなんだったら最初からユリウスとは付き合わなでしょ。引きこもってほしくないけど、冬のおかげでますます外に出歩かなくなったから。この部屋に居ればユリウスを独り占めできて優越感だよ。だから冬は好き。』

「…私を独り占めしたいなんて女。お前位だ名前。」

『それは浮気の心配がなくて安心だ。』

「誰がそんなものするか。知っての通り私は嫌われている。」

『私がその分愛してあげるよ。』

「…そんな恥ずかしいセリフがよく言えるな。」

顔を赤くしてそっぽを向く。照れているとわかってしまえば冷たい言葉も可愛い。くすくす笑う私にユリウスが腕を伸ばした。おいで、と言われなくてもわかって吸い寄せらせるように彼のもとへ行く。窓に触れていた冷たい指先が彼の温度でじんわりと暖かくなった。こういうところも冬のいいところだ。人の体温がいつもより暖かく感じる。

「冷たくなっているじゃないか。あまり体を冷やすな。」

『…ユリウスって案外過保護だよね。』

「…名前だけにな。」

『ふふ、それは嬉しい限りですね。』

「お前は私意外にも優しいし、浮気も心配になる程いつもふらふらしているがな。そういう意味では私も冬は好きだ。あまり外に出なくなっただろう。」

『だって寒いし。季節をわざわざ変えなきゃいけないなんて意味わからないよ。それにジョーカーに会うとユリウス不機嫌になるし。私はユリウスが嫌がることはしたくない。浮気の心配なんてないのに。今が安心できてるならいいけど。』

「別に外に出るなとは言っていない。名前を締め付けるつもりもないしな。…ちゃんと帰ってくるならそれでいい。それで、何か用事があったのか?雪が降って落ちこんでいただろう。」

『んー、まぁ。出かけようと思ってたんだけど。』

私の手を温めるように包むかさついた手。暖かさをさらに求めるように彼に寄り添った。ユリウスの膝に軽く乗れば安定させるように腰に手を回してくれ更に密着する。暖かい、この人は。わかりづらいし言葉は少ないがよく観察すれば顔に出るし、仲良くなれば遠回しに優しい事もいう。たまに大胆なこともいう。そういうとこがいちいち可愛いらしい。今だって窓を見ていただけで体を冷やすから離れろ、といい雪をみて出かけたかったのか、と落ち込む理由を聞いてくれる。

『ユリウスと出かけたかったんだけど。丁度この時間帯からホットワインとかホットココアとか暖かい飲み物を焚火で囲みながら、っていうイベントがあって。たまにはでないかなって。』

「私が行くと思うか?」

『貴方は優しいから私がうしても行きたいといえば行ってくれるはず。』

「名前はどうしても行きたいのか。」

『まぁ、ぶっちゃけ塔に居ればグレイがココアを入れてくれるし。暖炉の前でホットワインを飲めば済む話なんだけどね。』

「行く意味あるのかそれ。」

『私はユリウスとデートがしたいんじゃない。わかってないな。』

「…ここは私とお前の2人きりの世界なんだろ?だったらここに居ればいい。ここでだってデートはできる。」

『そう。じゃあ仕事はおいてくれるの?』

「丁度休憩にしようと思ってたしな。」

『それで、なにしてくれるの?私今日の予定は空白になっちゃったから、楽しみだな。ユリウスはなにがしたい?』

「私は名前がいれば十分だ。」

『ならすぐ叶えられそう。ユリウス、この後予定もう少し空けといてね。』

彼を引き寄せキスをする。コーヒーの味がするがすぐにわからなくなる。外にデートに行くはずだったのに健全じゃない方向に向かっている。それでもやめられないし、やめたくない。冬は寒い。人恋しくなる季節なのだから仕方ない。ここは2人だけの空間で、この後の予定ない。ゆっくり熱く愛し合ってから考えてもいいじゃないか。


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