翠百合
マグル生まれのリリー・エバンズのように私はなりたかった。
人の前に立つことが苦手な私に比べて、華やかで表舞台に立つのにふさわしいまさに完璧な女子生徒。
友人のセブルスが彼女に好意を寄せているのを知って危機感を感じた。もしかしたら、セブルスは彼女を追って光の中へ行ってしまうかも知れないと。
セブルスだけじゃない。彼女がマグル生まれだから口にする者は0に近いが、スリザリンの中でも彼女に好意を持っているものを数人は見かけた。
…これではいけない、スリザリンの中からセブルスを初めとして何人も光の中へ行ってしまうかもしれない。それは私たちのような純血主義者―つまりは闇の中に染まっている人間たちの危機なのかもしれないから。
だけれど彼らの彼女に対する思いはかなり強くて、彼女を消すという選択などはできないだろう。
ならば―――
「――――っ、ハッ…ぁっ。ファミリー、あなた何を…」
「何ってただの口づけでしょう?」
言いながら自分と彼女の口の間に伝っている銀の糸のような唾液をなめた。
「同じ性別の私にそんなことするなんて、どうかしているわ」
「あら、私たちの純血主義の純血差別は否定するくせに同性愛のことは差別するのね」
「…そもそも恋人同士でもない私たちがこんなことをするのが一番の問題なのよ」
「そうかしら…私は同寮の方々とは恋人でなくとも口づけなどするわよ?」
「さすが、純血貴族の多いスリザリンといったところかしら」
今の発言も差別的な問題の発言だったけれど、特に問題はないので軽く流す。
「…まぁ、それで問題なら私たちが付き合えばいい話じゃない?」
「な…っ、それは!」
「それともポッターのほうがいいの?」
「な、んでそこでポッターなのよ…彼はいつもセブルスをいじめているじゃない」
…そんなセリフを言うということは彼への想いは無意識なのだろうか?まぁ、今の私には関係ない。
「なら条件を付けてあげる。あなたのそのご友人のセブルスが我々闇陣営に行こうとしているの…光のあなたなら是が非でも止めたいでしょう?」
「…えぇ、そうね」
「私なら彼を無理矢理でも止めることができるわ、立場的にね。だから、私と卒業するまで付き合ってくれたら彼を闇から引き離してあげる」
「本当に?」
「えぇ、もちろんよ」
もちろん嘘だけれど。
それでも彼女は私を信じて「わかったわ」と小さくつぶやいた。
その時の私は、別に彼女へ何の思いもあるはずないのに奇妙な喜びを感じてしまった。あぁ、みんなになんて言おうかな…。
「じゃあよろしく、リリー」
「…えぇ、ファースト」
好きだとも何とも思わない、ただ利用するだけの恋人のはずなのに。
私はあなたをほしいと願ってしまった。
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