■ ディアキュートハニー

「こんにちわっス!名前っち!!」

「黄瀬…」

彼女…人気モデル黄瀬の姿を見た瞬間、俺は大きく溜め息を吐いた。

ここは俺のバイト場所の1つのマシバ。スマイル0円で接客をしていたらこいつがやってきてしまい、スマイルが出来なくなっている。

「…お前何しに来たんだよ」

「名前っちに会いにッス!!」

「何で変装とかしてないの?」

「いつもじゃないッスか〜」

それはそうだけど、この人気モデル(笑)のせいで普段騒がしいマシバの店内がしーんとしてるじゃねえか。お客様の目がお前に釘付けだよ。

「もう俺に会ったろ?帰れ帰れ」

「折角なんでなんか買っていく!」

「じゃあさっさと決めろよ」

「じっくり見させてほしいッス!!」

「ちっ」

メニューを黄瀬に放り投げてマイペースな彼女を睨み付ける。
先程までは確かにスマイル0円だったけど腹立つからこいつにはスマイルやんねぇ、腹立つから、腹立つから。

「じゃあバニラシェイクにするッス!」

「お前は黒子か」

「テヘペロっス」

「お客様、お帰りはあちらになります」

「まだシェイク受け取ってないッスよ?」

「冷静にツッコムんじゃねえよ黄瀬の癖に」

「酷い!」

ブーブー文句を言われるので仕方ない、さっさとシェイクを紙コップに注ぎ、蓋をしてから袋の中に入れて黄瀬に渡す。

黄瀬はキョトン、と一瞬顔を固まらせてブンブン手を振った。

「あはは、名前っちったら!ここで飲んでいくっスよ?」

「おいやめろ、勘弁してくれよ帰れ」

ここにいつまでもいられたら困る。だって今でもこいつ注目浴びまくっているんだからな…きっと一人くらいは「キセリョがマシバなう」とか打ってるんだろ、マジで勘弁してくれ。
仕方ない。

「おい黄瀬」

「なんスか?」

そう言った黄瀬の笑顔は雑誌などで見る無機物な笑みではなく、明るい、一人の高校生だった。

「…もうすぐバイト終わるからそこで待ってろ」

「え?」

「映画でも見に行くぞ」

「…!はい!!」

シェイクの金を置いてちょこちょこと俺の指示した席に向かう黄瀬は不覚にも可愛く思えてしまった。

「俺の彼女世界一…」

他の店員にも客にも、黄瀬にも見られないでボソッと小さく呟いた。

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