■ 君の居なかった時間
一瞬のことですぐには頭が追い付かなかった。
車が名前に向かって走ってきたと思ったら次の時には名前は空中にいてそのまま落下。車は止まることなく勢いよく逃げていった。
落下した名前の周りには血がたくさん付いていて結構エグい。それでも俺は必死に震える指を動かして救急車を呼びだす。
「名前が、人が…軽自動車に轢かれて…っ場所はー」
なんと聞かれてたのかは思い出せない。ただ急いで声をかけ、人口呼吸だなんだを繰り返した。
名前が生きてくれれば犯人なんて見つからなくて良いから…っ!
*
「名字は交通事故に遭ったのか」
「そーそ、中学の卒業式の日にね」
あれから数ヵ月後の今日、俺と緑間は同じクラスになった名前に授業のプリントと宿題を持って病院にきていた。
あの日からずっと名前は病院に入院していたのだから。
4月の入学式から6月の今日まで名前は一度も学校に来ていないわけだから緑間と名前は初の御対面となる。
「…名字はどんなやつなんだ?」
「ん?なんで」
「俺と名字が対面したとき何を話したら良いか分からないだろう」
「真ちゃんでもそんなこと考えるとか…ちょっと意外ブフォッ」
「笑うな!失礼な奴なのだよ」
ぶつぶつと文句を言っても俺が言ったらついてきてくれた辺りやっぱりこいつは良いやつだ、優しくて不器用で…名前が事故にあったあとも俺が今まで通りいれたのは緑間に会ったからだとおもう。
「大丈夫だよ真ちゃん、あいつと会話なんて出来ないから」
「は?」
ぽかん、と珍しく疑問系の表情でこちらを見る真ちゃんに苦笑せずにはいられなかった。
名前の入院している病室前につき、2、3回ノックをしてから彼女の病室に足を踏み入れる。
「よっ名前!今日は前から言ってたエース様連れてきたぞ!!ほら真ちゃん椅子に座って」
「あ、ああ」
病室といえば患者は基本ベッドの上に要る。だからこそ真ちゃんもベッドの上をみて、俺が言った意味を悟ったのだろう。
ベッドの上の名前はいつものように綺麗で、そして眠っているようだった。
「…お前が会話できないと言っていなければたまたま寝てるようにしか思えなかっただろうが…意識不明なのか?」
「うん、ずっとな」
体に点滴は付いているから栄養は取れてる、 外傷も医者の腕が良かったせいか完治している。けどずっと目を覚まさない。
「交通事故に遭ったら普通は死ぬって。でも奇跡的に名前は生きてる、これで満足しなきゃいけないかなって」
「高尾」
「ほーら、真ちゃんそんな顔しないで!なんか名前に話しかけてよ!!」
「…ああ。緑間真太郎だ」
結局真ちゃんは俺と一緒に面会可能な時間まで一緒に居てくれると言った。今日はおじさんもおばさんも来れないはずだといったらその方が名前も寂しくないだろうってさ。
話すとき然り気無く真ちゃんが名前に語りかけるように話していて、それがとてもありがたかった。
「そういえば名字はなに座だ?」
「蟹座、真ちゃんと同じ!」
「ほう、じゃあ今日のラッキーアイテムをやろう」
そう言って真ちゃんは意識のない名前の頭の隣にそっとウサギのぬいぐるみを置いた。
「え、なになに?真ちゃん名前のこと気に入った?」
「餞別だ。お前の友人ならこの先苦労するだろうからな」
「ちょ、ナニソレっ俺が真ちゃんにいっつも苦労かけてるみたいじゃん!!」
「 」
「おい緑間ぁ!なんだよその顔は!!」
「五月蝿いのだよ」
「そうだよ和成、病院では静かにね?」
「名前まで!…って、え…?」
首が曲がるぐらいの勢いで振り替えると、そこには先程と同じく寝ている態勢の、しかし目を開いてにこやかに微笑む名前が居た。
「やっほー和成に緑間くん」
「俺が分かるのか?」
「夢で君が挨拶してたからね」
ニッコニコと笑う名前はまるで事故に遭う前と変わらなく今まで通りで、むしろ意識が無かったと言うのが嘘のようだった。
「名前…」
「ん?どしたの和成、そんな情けない顔して」
「るっせ…!」
くしゃっと顔が歪んでしまったのだろう、涙を出さないように堪えていたから。
それでも限界になり見られないようにと名前勢いに任せて抱き締めた。
「遅い」
「ごっめーん」
「許さねえ」
「許してよお」
「…おかえり」
「ただいま」
ギュッと力強く抱き続けると名前はポンポン、と俺の背中を優しく軽く叩いた。
「ふん、やはりおは朝は偉大なのだよ」
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