確認したかっただけ
いまだけ天才的な頭脳が欲しい。具体的にはセオドールくんを落とせるくらいの素晴らしい発想とアイデア。そのことを考えてから早数日たったが、結局思いつかない。
私こういうの苦手だわ。センスがない、センスが。普通に告白したらセオドールくんには通用しない。じゃあどうするのか、それすらわからない。だって告白が通用しないとかある? いまどき「付き合って」と言ったら「どこに」と返ってくるとか想像もしてなかった。そんなセオドールくんも好きだけど。
前回までのあらすじ。私がセオドールくんに告白したら上記の反応。美少年だし優しいのに、告白になれていなかったのかしら。そんなことはなさそうだったけど……。
どうすれば良いのか悩みすぎて、あれからセオドールくんに会ってからも何度か「付き合って」と言ってしまい「だからどこに」という話をくりかえしていた。押せば行ける気はしなかったけどやっぱりだめだった。
フラーの第1課題の活躍も、魅力をふりまいたところしか思い出せない。ごめん、フラー。第2はきちんと見るからね。
「そもそもセオドールくんに恋人がいないかを確認してなかったの」
「それはだいぶでかい失態だな、おねーさん」
「私もそう思ったわ。だから確認しに来たのよ」
「スリザリンの寮の入口を見張りに」
「……うん」
だいぶ変態臭いというか、ストーカーの気を感じる。私自身に感じるとかどういうことよ、と思いつつ、ザビニくんの冷静なツッコミに頷く。
そもそもセオドールくんは気付かないふりをしているのでは? そうだとしたらなぜ? そう友達に問われて、私は答えることが出来なかった。が、彼女から、もしや恋人がいるのでは、という話になった。
セオドールくんに恋人がいるかもしれないという問題を、友達に定義されてからようやく気がついた私は、なにを思ったのか(本当に何を思ったのか。実行している今もおかしいけど、あのときのことがなぜだか思い出せない)。とりあえず、セオドールくんがいつもいくスリザリンとかいう名前の寮を、ゴーストたちに教えて貰い、8時間かけてようやくたどり着く。そしてそのままじっと寮の入口を見ていた。女の子と出てくるかもしれない、入るかもしれない。そうしたらその子は恋人の可能性が高いわよね! という結論だっただろうか……。自分で自分にあきれてしまう。ばかだ。
現にセオドールくんのおさななじみのドラコくんに見つかった。通報されそうになったところをザビニくんに回収され、ザビニくんの監視下のもとで入口を見張っている状況だ。わけわからない。
「俺からしたら、恋人がいるかどうかの確認で寮を見張る時点でわかんないけどな。聞けばいいじゃん」
「そうしたら好きなのバレちゃうでしょ!」
「いや、告白してるんだよな?」
「それはそれ、これはこれ。心の準備の話よ」
バレないように、せめて恋人がいるかいないかだけでも確認したいのだ。それが乙女心というもの。私限定ということは理解しているけど。
セオドールくん自身じゃなくても、ザビニくんやドラコくんに聞けば話が早いってわかるけど、それはそれでなんとなく聞きにくい。知ってるかどうかもわからないし、聞いたとしてうっかりセオドールくんの前で、私がセオドールくんに恋人がいるか確認してるって話になったら、いやよ私。
そんなこんなでザビニくんと小声で雑談を続ける。今日は日曜日だからか、ホグワーツも授業は休みで人の出入りが激しい。だというのにセオドールくんが全然来ない。なんで。
「セオドールくんが全く来ないのはなんでなの……。1日中寮のなかにいるの、それとも1日中外にいるの」
「んー、前までのノットはどっちかっていうと後者よりだなあ。最近はそうでもないけど」
「そうなの? なんで」
「なんでって、そりゃ」
ザビニくんは少し考え込むようにどこか視線を動かしてから、私に視線を戻す。にやりと、まるでいたずらっ子のように笑った彼は口をゆっくりと開こうとする。
「ベル!」
しかしザビニくんがなにかを言う前に、彼の言葉を遮るように大きな声が響く。そっちを振りむけば、待ってました、ようやくご登場です、セオドールくんだ。
彼の聞いたことのないような大きな声に、セオドールくんって大声出せたのね、という感想を頭のなかでいだく。そして、どうかしたのかと言おうとすれば、セオドールくんは急に小さい声になった。
「ようやく見つけた。……なんでここにいるんだ」
「えーっと、ごめんね?」
まさかセオドールくんに恋人がいるか探ってました! なんて言えるはずもなく、とりあえず笑って誤魔化し、謝る。
ドラコくんやザビニくんと比べ、やや背の高いセオドールくんがずるずると崩れてしゃがみこんでしまった。なんだろう、この大きな体を無理やり入れこもうとしている感じ。たいへん可愛らしいのだけど。
「それより私、今日セオドールくんと約束していたっけ。探してくれたのよね?」
誤魔化し続けるように、そう言えば、ザビニくんが吹き出した。えっなになに。
ザビニくんが変だわ、と、自分の今日の奇行は棚にあげてセオドールくんに伝えようとする。が、セオドールくんはなぜだかサッと自分の長い腕で頭を隠してしまった。え、どうしたのよ2人とも。変よ。
吹き出したけどまだピンピンしているザビニくんより、重症そうなセオドールくんに駆け寄る。とりあえずどうすれば良いのかわからなかくて、私も彼と同じようにしゃがんでみた。体幹が鍛えられてなくてぐらぐらと傾くのだけど。セオドールくんはすごいわ。
セオドールくんになんて声をかければ良いのだろう。どうしようと内心だけでオロオロしていれば、セオドールくんのほうが顔を上げずにさっきよりも小さい声でつぶやいた。
「……が、……ら」
「柄?」
「ベルが、いつも休みのときは必ず図書館にいるから! 会えると思ったのにいないから探した」
勢いよく顔を上げたセオドールくんの顔は真っ赤だ。私の告白には平常心冷静クールだというのに、まさかこんなことで真っ赤なセオドールくんが見れるとは。美少年の赤い顔とか眼福すぎる。
なんだかよくわからないけれど、セオドールくんがいつも以上にかわいい。そしてなにより、彼が私に会いたいと思ってくれてることがただただ嬉しかった。
なんとなく、ぽんぽんとセオドールくんの頭をなで、そしていつも通りつぶやいた。
「セオドールくん好きよ、付きあって」
「だからどこに」
この流れに吹いたザビニくんがいたのはまた別の話。
2018/11/19
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