その時部屋の前を通りかかったのは、伊東とその取り巻きだった。

「ああ……困ったことになったわ。まさか、あの小箱がなくなってしまうなんて……!」

「申し訳ありません。紛失したことに気付いてから、屯所中を探したのですが…」

「もし、同志以外の連中に見つけられたら、大変なことになるわ。一刻も早く探し出して!私も、心当たりのある場所をもう一度探してみるから」

「はっ、かしこまりました!」

足音が遠退いていき、声が聞こえなくなったところで総司が口を開く。

「……随分慌ててたみたいだけど、一体何をなくしたんだろうね?」

「小箱?他の人に見つけられたら困るとか言ってたけど」

「……もしかして、新選組に害をなすものなのかな?」

あたしに向けられた目は、いつもの彼とはまた違う、新選組一番組組長のそれだった。その意を察して、短く息をついたあたしは腰を上げる。
あの馬鹿の探し物なんかに興味はないけど、もしそれが新選組にとって害となるなら放ってはおけない。……と総司が言うなら、補佐であるあたしが動かないわけにはいかないだろう。パシリはつらいね。

「…ま、あいつの弱味が握れるとすれば、あたしにもメリットはあるか…」

「クライサちゃん、すごく悪どい顔してるよ」

総司の部屋を出たあたしは、とりあえず『小箱』とやらを探すことにした。伊東やその取り巻きが散々探し回ったというから、そう簡単に見つけられないだろうとは思うが。
どこから探したものか考えながら廊下を歩いていると、巡察から戻っていたらしい千鶴に会った。……そしてその手にある小箱を見て、ちょっと頭が痛くなった。

「あっ、クラちゃん、沖田さんから何かお話は聞けた?」

「ううん、平助のほうはどうだったの?」

左右に振られる首に、そっか、といかにも残念そうな声を返しつつ、千鶴の持つ小箱を指差す。

「ところで、それは?」

「あ、これはね、井上さんが境内で拾ったものらしくて……」

誰のものかはわからないが、これから隊士たちに稽古をつけねばならないという源さんに頼まれて、その箱を土方さんに届けに行くところらしい。

あたしは暫し考えた。多分これは、伊東が探していたものだろう(なるほど、既に誰かの手にあったのなら、どこを探したって見つからない筈だ)。
土方さんに渡してしまえば、新選組に害をなすかもしれない、という可能性はゼロに近くなる(土方さんと伊東の間で一悶着ありそうだが)。
素直に持ち主に返すならば、あたしの手から、というだけであの伊東は渋い顔をするだろう。それも見物だ(場合によっちゃ弱味も握れるヒッヒッヒ)。
総司の指示で出てきた以上、あいつのところに持ち帰って判断を任せるというのも手だ。それなら事後報告もしなくて済むし、あいつの判断は結構正しいことが多いし(っていうか、もし面白そうなものだった場合、知らせてやらないと後で拗ねるし)。
さて、どうしようかな…


土方さんに届ける
伊東に返す
総司の指示を仰ぐ







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