ぼとぼとと落ちる血に引かれるように、力の抜けた膝が地面に着く。傷口は、右でない。しくじった。素早く刀を戻した風間の、左側からの攻撃を躱しきれなかった。ーー最悪だ。左目の上、瞼をざっくりと斬られてしまった。

「貴様にとって、右側は死角。そちらからの攻撃に弱い…と貴様は思っているのだろうが、実際はそうではない。見えない分、気配に敏感になっているために優れた反応を示すのだ」

辛うじて眼球は守ったが、傷口の痛みと流血のせいで目を開けていられない。勝ち誇ったように語る風間を睨み上げるが、視力のない右目ではその姿をとらえることは出来なかった。ああ、最悪だ。視界、ゼロ。

「それに比べ、左側は見えているがゆえに反応に遅れが出る。それこそが貴様の弱点だ」

「く……」

悔しいが、認めざるを得ない。見える見えないで反応にムラがあるということは、結局視覚に頼っていたことを否定出来ないのだ。これでは、前線に出る者として胸を張ることは出来ない。普通に生活するだけならいい、だがあたしは『戦う者』だ。

「降伏するか?素直にその女鬼を渡すと言うなら、見逃してやらなくもないが」

「誰がっ!」

「ふん、視界がきかぬというのにまだ刃向かうか。志だけは立派なものだ」

肌が粟立つ。殺気を感じて体が動くが、氷纏が刃を受けたのは右の二の腕を僅かに抉られた後だった。
戦闘に慣れた体は考えなくとも反応する。これがそこらの不逞浪士相手なら問題ないのだが、身体能力の優れた鬼相手ではそうもいかない。刀が振るわれる気配を察しては氷纏と脇差を握る両手が応じるが、常に一拍遅れてしまい、あたしの身体はみるみる傷だらけになっていった。かといって、相手の位置を予測して刀を振るっても掠る感触すら手に感じず、焦りは増すばかりだ。
辛うじて致命傷を防いでいる状態のあたしは、傍目から見れば満身創痍もいいところだろう。全身に刻まれたのはどれも比較的浅い傷だが、おそらく出血は相当なものだ。血が肌を伝う感触が、先程から鬱陶しくて仕方ない。

「もうやめて!!」

千鶴が泣き叫んだ。
……また、泣かせてしまった。きっと、見ているだけの自分を憎く思っているのだろう。よく飛び込んで来ないでくれたと思う。彼女が小太刀を持って飛び込んできたとしたら、あたしはきっと正しく殺気を読み取れなかった。

「……行きます」

「千鶴……?」

「私、あなたについて行きます。だからもう、これ以上クラちゃんや皆さんに手を出さないでください」


微かに震えた声を聞いた瞬間、目の前が真っ赤になった。






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