クラちゃんの右目は視力を失っている。松本先生の診察によって明らかになった事実は、土方さんに伝えられ、幹部の知るところとなった。
しかし、その事実は当然、信用に足る人物以外に知られてはクラちゃんにとって不利益となる。右目が見えない。それはつまり、死角となる右側からの攻撃への対応が遅れてしまうこと。それを知られることは、前線で戦う彼女にとって致命的な損害であると言えるのだ。

「クラちゃん!!」

彼女の弱点を知った途端、風間さんの攻撃は全て左側、つまりクラちゃんの右側からへと変化した。来る方向がわかっていても、それで必ずしも攻撃を防ぐことが出来るわけではないようで、刃が彼女の身をかすりそうになるたびに呼吸が止まる。クラちゃんの表情も、苦々しげに歪んでいた。
卑怯だ。私の叫びを、風間さんは鼻で笑った。

「戦においてそのような言葉は通用しない。元より、敵の弱点を突く事は立派な戦術だろう」

「はっ、笑わせるね。鬼の力は圧倒的だとか言っときながら、戦術を語るなんて人間みたいなことをする」

「……ふん」

何度か攻撃を防いでいるうちに少し余裕が出てきたのか、防戦一方だったクラちゃんが攻めに転じた。
振り下ろした刀と風間さんの刀が打ち合うと同時に、左手の脇差を振るう。一歩下がってそれを避けた風間さんが、凄い速さで刀を振る。これもクラちゃんの右側から。しかし素早く身を屈め、刃が頭上を過ぎた瞬間にクラちゃんが勢いよく地を蹴った。飛び込むように風間さんの懐に入ると、彼女は斎藤さんの居合いのような動きで刀を薙ぐ。

「……チ」

小さく聞こえたのはクラちゃんの舌打ちだ。彼女が振り払った刀にぶつけるように、風間さんが力強く腕を振るう。鋼同士がぶつかり合い、甲高い音が響いた直後、押し負けたクラちゃんが僅かに体勢を崩した。
殺気を孕んだ空色の眼が見開かれる。彼女の死角に移動した風間さんの追撃を、クラちゃんは気配だけで察し、左手を突き出して脇差で受け止める。
息も吐かせぬ攻防に、私は瞬きを忘れた。クラちゃんの弱点が知られた時はどうなるかと思ったが、彼女の様子を見るに無用の心配だったのかもしれない。

だけど、それは私の勝手な思い込みだった。

「逆、だ」

ニヤリ。風間さんの口が弧を描く。
端的な言葉に疑問を抱く前に、クラちゃんの身体が崩れ落ちた。






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