まったく、鬼連中ってのは空気が読めないのか、もしくは読み過ぎなのか。

「暇人なのかって疑いたくなる頻度で来るよね、アンタたち」

千ちゃんと君菊さんが屯所を去り、改めて静かな夜を迎えたかと思えば、自室に戻ったあたしの耳に届いたのは怒号と悲鳴。境内に出れば、隊士たちが鬼の襲撃を退けようと刀を振るっているところだった。
土方さん、左之、新八が相手取る鬼は天霧九寿と不知火匡。姿の見えない婚活鬼に不安を感じ、その場を土方さんたちに任せて境内を駆けたあたしは、建物の裏でその姿を見つけた。予想通り、ピンチに陥っている千鶴と、彼女を捕らえてせせら笑っている風間千景の姿を。

「また貴様か、小娘」

背後から斬りかかったあたしの剣を風間は易々と受け止めるが、千鶴を抱えていることで動きが鈍くなっている。続く剣戟の中で隙を見つけ、奪い返した千鶴があたしの背後で息を吐き、睨む先の風間が舌打ちした。

「それはこっちの台詞。懲りろコノヤロー」

「懲りぬのは貴様の方だ。よもやこの俺に勝てると思っているわけではあるまい?脆弱な人間風情が」

「ほんとメッチャ腹立つな、その自信。偉いのはアンタじゃなくて血だろ。鬼の家に生まれたから強いってだけのくせに威張りくさってさ」

二条城で戦った時、確かにコイツは強いと思った。だけどそれは速さと腕力が人間より優れているというだけだ。剣技が鍛え抜かれているわけでも、戦闘センスがずば抜けているわけでもない。なら、実は努力の人なあたしがコイツに負けるわけにはいかないのだ。
氷纏を構えたまま、左手で抜いた脇差を逆手に持つ。いつも双剣として使うような軽い剣なら、風間の速さを上回る自信があるのだが、そうもいかないのが悔しいところだ。

未だ、土方さんたちが応援に駆けつけてくれる様子はない。他の鬼に手を焼いているのだろう。ーー好都合だ。

「んじゃま、思いっきり行かせてもらおうかね」

背後でハラハラしている千鶴の気配を感じるけど、残念、あたしに退く気はない。つい先程、千ちゃんに千鶴を頼むと言われたから……という理由ももちろんあるが、個人的に風間はぶっ飛ばしてやりたい相手だ。
抜いた刀は、正しい意味を持って彼に斬りかかる。生憎、味方を守るためではない。敵を斬る。あたしが刀を振るう理由は、ただそれだけだ。

「ふん……速さだけは大したものだ」

「そりゃどーも!」

まともに打ち合っては、腕力で劣るあたしが勝てる見込みはない。それに重い刀を片手で持っている以上、こちらの剣に威力はない。あたしに出来るのは、持ち前の俊敏さとトリッキーさで、相手のペースを乱し、隙を狙うことだ。
風間の剣を躱し、双刀でいなしながら生まれた穴をついて攻撃をねじ込む。さすが鬼、素晴らしく憎らしい反応の良さを見せる風間にまともに命中することはなく、漸く与えたかすり傷も目の前で瞬時に治ってしまう。

「…っわ!?」

右手側、つまり右目のきかないあたしの死角から中段を斬り払う刀を、氷纏と脇差を交差させてギリギリで受け止める。押し負ける前に地を蹴り、間合いをとって再度身構えたが、風間の笑みにあたしの余裕は消え去った。しまった、しくじった。

「……貴様、右目が見えていないな?」

ーー厄介なことを、知られてしまった。






back




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -